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第一話 生きるための剣
朝の道場は、静かだった。
板張りの床に差し込む光。
壁に掛けられた木刀。
磨き込まれた鏡のような床に、ひとりの青年が立つ。
余間 遊真――ユーマ。
振り下ろす。
乾いた音が響く。
余間流に“勝つための構え”はない。
あるのは、
最小動作。
最短軌道。
無駄の排除。
両親は早くに亡くなった。
事故だった。
泣き崩れる間もなく、祖父に木刀を握らされた。
「守れ」
それが最初の言葉だった。
余間流は、武器を持てぬ者のための剣術。
弾圧された民が、棒や農具で生き延びるために磨いた技。
勝つためではない。
生きるため。
相手の力を外し、
倒さず、
制し、
離脱する。
「殺す覚悟を持て」とは教えられなかった。
「死ぬな」とだけ、教えられた。
ユーマは振る。
視線は相手の“初動”を見る位置。
重心の揺れ、呼吸の間、筋肉の緊張。
現実を正確に観察する。
思い込みを排する。
祖父はよく言った。
「世界は、思い込みで狂う」
だからこそ、歪めるな。
ユーマは深く息を吐く。
今日も変わらない日常。
だが、その瞬間。
視界が白く弾けた。
床が消える。
音が消える。
身体が、落ちる。
世界が、反転する。




