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白幹の調律者  作者: ユーマ


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1/3

プロローグ 白い幹の下で

初めての投稿です。

よろしくお願いします!

その森は、音が半拍遅れて聞こえた。


踏みしめた落ち葉の音が、足を上げたあとに追いかけてくる。

風に揺れる枝葉のざわめきも、どこか遠い。


「……魔力汚染、濃いな」


低く呟いたのは、長柄武器ハルベルトを担ぐ男――ガノンだった。


森の中心には、白い幹が空へと伸びている。


世界の歪みを吸い上げる調律装置。

この世界で“世界樹”と呼ばれる存在だ。


幹は傷つき、表皮がひび割れている。

足元には白い破片がいくつも散らばっていた。


「コンパスも狂ってます。三度目っす」


荷を背負った少年――トンボが困った顔で針を叩く。


影の向きが、太陽と合わない。

鳥も鳴かない。

動物の気配も消えている。


ここは、魔法が使われすぎた場所だ。


「依頼内容は“異常調査”。討伐じゃない」


水色の髪を風に揺らしながら、弓を構えたナキが言う。


「だが、何かいる」


ガノンの視線が奥を射抜く。


その時だった。


空気が、歪んだ。


音が消え、次の瞬間、森の一角が赤く染まる。


炎ではない。


“ここは燃えている状況だ”と、世界が誤認させられたのだ。


木々が爆ぜる。


「来るぞ!」


ガノンが踏み込む。


赤の中心から、ひとりの男が現れた。


黒衣。

額に魔術陣の刻印。

指先に淡い光。


「所属は?」ナキが問う。


男は笑う。


「無所属だ」


その言葉に、空気が張り詰める。


この世界で最も危険視される存在――野良魔法使い。


「実験だ。世界樹がどこまで“戻せる”か」


男の周囲で、影がねじれた。


地面が波打ち、視界が傾く。

現実の解釈が書き換えられていく。


トンボが足を取られ、転ぶ。


その瞬間。


「大丈夫だ」


静かな声が、背後から届いた。


余間 遊真。


ユーマは一歩前に出る。


手にしているのは、白木の木刀。

世界樹の破片を削って作られた、魔力を通さない武器。


彼の目は、歪みを見ていた。


炎の“予定”。

地面の“崩れる未来”。

魔法はまだ成立していない。


男の指が動く。


世界が「燃える」と決める、その一瞬前。


ユーマは踏み込んだ。


最小動作。


木刀が、空を打つ。


乾いた音。


――歪みが、弾けた。


赤が消える。


地面が静止する。


男の目が見開かれた。


「……なぜ、干渉できる?」


ユーマは答えない。


彼は魔法を否定しているのではない。


ただ、世界を正確に観察する。


“それは違う”と、自分の中で修正する。


書き換えを成立させない。


男が舌打ちし、陣を展開する。


構築魔法。


詠唱と共に空間に式が浮かぶ。


今度は広範囲だ。


ユーマひとりでは、止めきれない。


その時。


視界が澄む。


空気の流れが読める。


背後の足音が、正確に分かる。


トンボの鼓動。

ナキの弦の張り。

ガノンの踏み込み。


“守る”。


その意思が、形になる。


ユーマの能力――不殺の誓い。


彼が味方と認識した者に、回避の感覚が共有される。


トンボが、自然に後退する。

ナキの矢が、魔術式の一点を射抜く。

ガノンが陣の外縁を叩き割る。


世界の解釈が、揺らぐ。


男は初めて焦りを見せた。


ユーマと目が合う。


敵意。


認識。


臨戦態勢。


条件が揃う。


「……お前」


男が言いかけた瞬間、空気が変わる。


世界が、圧縮される。


森の音が遠のき、視界が狭まる。


一対一。


他は背景。


ユーマの奥の手。


争いを理解可能な形に収束させる力。


男の呼吸が乱れる。


「殺せない……?」


魔法使いの指が震える。


過去に奪った命が、反動となって重くのしかかる。


陣が崩壊する。


膝をつく。


ユーマは、木刀を振り下ろさない。


ただ、男の手首を打ち、意識を断った。


静寂。


遅れて、森の音が戻る。


風が吹く。


白い幹が、微かに光を帯びた。


歪みが、吸われていく。


ガノンがユーマを見る。


「……殺さなかったな」


「はい」


「甘いな」


だが、その目は否定していなかった。


ナキが近づき、軽く肩を叩く。


「怪我ないか?」


「大丈夫」


トンボが駆け寄る。


「すごいっす……! でも俺、全然怖くなくて……」


ユーマは苦笑する。


「怖くなかったわけじゃない」


本当は、限界に近い。


守る対象が増えるほど、負担は重い。


それでも。


「みんな無事で、ご飯を食べられるなら、それでいい」


トンボが笑う。


ガノンは世界樹の幹を見上げた。


「この森、また歪むぞ。魔法文明は止まらん」


白い幹は、静かにそこに立っている。


魔法を否定せず、

ただ、戻す。


ユーマは落ちていた破片を拾う。


軽い。


だが、確かな重み。


「……ヨーマ流の剣士、か」


ナキが小さく笑う。


その名が、やがて広がることを、まだ誰も知らない。


世界を書き換える者たちと、

世界を戻す剣士。


物語は、白い幹の下から始まる。

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