9.料理人、ステータスを把握する
「んー、どっちがいいと思う?」
俺はモニターを見て悩んでいた。
「何がだ?」
「キッチンカー拡張か電力拡張ユニット……ってか近くないか?」
「そんなことないぞ」
さっきゼルフを褒めてから、少しだけ距離感が近くなった気がする。
そして、距離感が近くなったのがもう一匹。
『オイラはキッチンカー拡張がいいぞ!』
狭いところが好きなのか、わざわざ俺とゼルフの間にコールダックが挟まっている。
確かに運転席部分は狭いから、本当に拡張されたら楽になるだろう。
ただ、俺は大型のトラック免許は持っていない。
そもそも異世界だから免許も関係ないのか。
異世界の運転免許証持ってないしな。
「お前、邪魔だぞ?」
『オイラだけ仲間外れにしたのがいけないんだ!』
ゼルフとコールダックは相変わらず言い合いをしている。
キッチンカーで作業しているのを横目で見ていたコールダックは、仲間に入れて欲しかったのだろう。
「喧嘩するなよ?」
俺の声でゼルフとコールダックはこっちを見てきた。
「『してないぞ!』」
似ていると言ったら怒られそうな気もするが、本当に二人とも似たような印象を受ける。
今も声が揃っていたしな。
それに俺に餌付け……料理が好きだって態度で表してくれる。
「料理のことを考えたら電力拡張ユニットの方がよりメニューの幅が――」
「それにするぞ!」
『それがいい!』
使える電気の量が増えれば、メニューの幅が広がりそうだ。
相変わらず食欲には勝てないのか、ゼルフとコールダックは全肯定だ。
「またチキン南蛮が食べたいな……」
『なんだそれは!? オイラも食べたいぞ!』
コールダックがチキン南蛮って……完全に共食いだ。
それにお昼ご飯もまだ食べていないから、お腹が減ってきているのだろう。
チラッと見たら、一人と一羽はよだれを垂らしていた。
俺は電力拡張ユニットに指を触れる。
――ポイントを振りますか? はい/いいえ
俺は〝はい〟を選択した。
これでもう少しは料理もしやすく――。
――エラー! 設備基準に達していません。
「えっ……」
給水タンクが追加されたように蓄電池が追加されたりするのかと思ったが、そうではないらしい。
「それならキッチンカー拡張しか選択肢はないね」
「『えー!』」
新しい美味しい料理が食べられると期待していたのだろう。
俺はキッチンカー拡張を押して、〝はい〟を選択する。
――ガタガタ! ガタガタガタ!
すると、突然キッチンカーが揺れ出した。
「地震か!?」
すぐに外に出ようとしたら、ゼルフに止められた。
さっきまでよだれを垂らしていたやつと同一人物だとは思えないほど、キリッとした顔をしている。
ゼルフは剣を出して周囲を警戒していた。
「魔物がいるかもしれない」
その言葉に俺は息を呑む。
ホーンフィッシュでも中々危険な魔物だったが、キッチンカーを揺らす魔物だと確実に力が強いやつだろう。
――ガッタン!
「「えっ!?」」
『クゥエ!?』
座席がアトラクションのように勝手に動いたと思ったら、背中が倒され足元には脚全体を支えるクッションが出てきた。
「ふぁー!」
ゼルフの方に目を向けると、あくびをして穏やかな顔をしていた。
それに少し距離が遠くなった気がする。
「広くなった……?」
「ああ、そうだな」
さっきの揺れはキッチンカーを拡張した時に起きたのだろう。
二人がけの座席が三人がけになって、前後左右に少しだけ広がった。
寝床の問題はこれで解決しそうだ。
「寝るなら剣は戻せよ」
「いや、見回りだけしてくる」
すぐにキリッとした顔に戻ると、ゼルフは外に出た。
キッチンカーの周囲を確認し、扉を軽く叩いた。
「魔物はいないから大丈夫だ! ただ――」
ゼルフは不思議そうな顔をしている。
何か別のことがあったのだろうか。
「どうしたんだ?」
「キッチンカーの大きさが変わってないぞ」
俺は外に出て広くなった運転席部分を見る。
「たしかに同じだな……」
キッチンカーの運転席部分が広くなったから、物理的に外観も変わると思った。
なのに外から見ても大きさは変わってないし、中だけが広くなっている。
本当に魔導具になってしまったんだと実感した。
キッチンカーが大きくなったら運転しにくいと思っていたが、サイズが変わらないのは俺にとってはありがたい。
山の中を大型トラックで移動するって考えただけでも大変そうだったからな。
再びキッチンカーの中に戻ってステータスを確認する。
【ステータス】
キッチンカー Lv.1 ポイント:0
ナビゲーション 1
自動修復
キッチンカー拡張 1
調理器具拡張
電力拡張ユニット
冷蔵/冷凍拡張ユニット
給水タンク拡張 1
排泄拡張
ディスプレイ
♢次のレベルアップ条件:1日売上 10,000円到達
これでポイントを全て振り終わった。
ポイントが増えれば魔導具となったキッチンカーは改造されていくのだろう。
一番下にレベルアップ条件が書かれているから、またレベルアップもするかもしれない。
ゲームとかだとレベルアップしたら、ポイントをもらえたりする仕様もあった気がする。
ただ、後ろに付いているお金の単位が気になった。
「なぁ、この世界に〝円〟というお金の単位はあるか?」
円が存在していたら、日本と似たような世界なのかもしれない。
もしくは日本の未来……いや、それは何となくなさそうな気がした。
そうだとしたら、ゼルフやコールダックがあんなに美味しそうにチキン南蛮やフィッシュフライバーガーを食べるはずがない。
日本みたいに食事が発展している国では、食文化が衰える気がしないからな。
「いや、俺は聞いたことがないぞ」
「そうか……」
ゼルフの言葉にキッチンカーでの将来が少し見えたような気がした。
きっとどこかでお別れをしないといけない時が来るのだろう。
「とりあえず……飯でも食べるか!」
「うおおおおお!」
『クゥエエエエエエ!』
あまりクヨクヨしていても問題が解決するわけではない。
それに近くの町に着くまでは安心できないからね。
俺は早速昼食の準備をすることにした。
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