8.料理人、問題が山積みです
『ふふん、さすがオイラだろ!』
コールダックは体をふっくらさせて上下に揺らしている。
さっきまで怯えていた姿が嘘のようだ。
「ふん! ハルトが止めなければ、俺が今すぐに食べていたけどな」
『クゥエ……』
本当にゼルフが食べそうな勢いで、剣を抜くから俺は咄嗟に止めていた。
まぁ、一人でこの世界に来て、コールダックでもいいから話し相手が欲しかったのもある。
それに――。
「ナビが使えたのは助かったからね」
どこにいるのか大体の場所がわかれば、キッチンカーを走らせることができる。
それに通った道はゲームのように、自動で登録されているから引き返しても道がハッキリと表示されていた。
あの時謎の声が聞こえてきたが、この世界に来てキッチンカーは本当に魔導具になったのかもしれない。
「そういえば、ナビにあるこのボタンはなんだ?」
ゼルフはモニターにあるホーム画面を押す。
【ステータス】
キッチンカー Lv.1 ポイント:2
ナビゲーション 1
自動修復
キッチンカー拡張
調理器具拡張
電力拡張ユニット
冷蔵/冷凍拡張ユニット
給水タンク拡張
排泄拡張
ディスプレイ
♢次のレベルアップ条件:1日売上 10,000円到達
「うぉ! こいつステータスを持ってるのか?」
「ステータス?」
俺はキッチンカーを停めて、モニターに目を向ける。
「はぁー、ステータスは俺たち人間にもあって、成長した証だろ?」
「あっ……ああ」
どうやらゲームのシステムのように、成長すると自然とステータスが上がるらしい。
成長したからステータスが上がるのか、ステータスが上がるから成長するのかはわからないようだ。
ただ、モニターに映るステータスが昨日よりも違うのが影響している気がする。
「ポイントが3から2になっているな」
ナビが使えるのは、ナビゲーションの隣に1と表示されているからだろう。
俺は試しにナビゲーションに指を触れてみる。
――ポイントを振りますか? はい/いいえ
「あー、本当にゲームみたいだな」
それにキッチンカーの隣に〝Lv.〟と書いてあるから、本当にゲームのシステムのようだ。
きっとこのキッチンカーはポイントを割り振って、成長させるものなんだろうか?
「ゲームって美味いのか?」
『ゲームは美味しいのか?』
揃った声に俺はつい笑ってしまう。
「ははは、お前たち食いしん坊だな」
「こいつと一緒にするな!」
『オイラはこんなやつとは違う!』
お互いに睨み合っているが、やはり息ぴったりだ。
「好きなことが一緒なのは良いことだ。俺も食べるのは好きだからな」
そもそも食べることが嫌いだったら、料理人を目指さないだろう。
俺はコールダックをジーッと眺める。
『まだオイラを食べる気か?』
「あっ、ちょっと羽を借りるぞ」
『クゥエ?』
俺はコールダックの羽を掴んで、モニターの〝いいえ〟に触れる。
「おっ、戻った」
画面は再びステータスに戻った。
やはりコールダックが暴れたタイミングでモニターに羽が触れて押していたようだ。
羽が反応したことに驚いたが、これで俺の仮定が正しいことになる。
ちなみにゼルフにも触れてもらったが反応はしていた。
コールダックの羽に反応するモニター。
本当に隣にいる真っ白でふもふとしたアヒルは何者なんだろうか。
そういえば名前をつけてなかった。
名前はまた時間がある時につけてやろう。
ナビが使えるようになった俺たちはきた道に戻っていた。
「やっぱり変わった魔導具だな」
ゼルフは興味津々にモニターに映るナビを見ていた。
「他の魔導具はこんなこと起きないのか?」
「はぁー、ハルトって別の世界から来たようなことを言うよな」
その言葉に俺は黙ることしかできなかった。
ただ、ゼルフはそこから何かを聞いてくることもなく、触れてはいけないと思ったのだろう。
むしろ俺はその空気感に安心した。
「おっ、やっと戻ってきたな」
そのまま車を走らせていくと、さっきまでいた川が見えてきた。
『クゥエ……本当にすまないね?』
「本当に謝る気あるのか?」
『あるに決まってるじゃないか!』
そう言ってコールダックは羽を広げて頭と一緒に下げて謝っていた。
独特な謝り方だが、あれがコールダックの謝り方なんだろうな。
「とりあえず、水だけはここで確保しておくか」
川まで戻ってきたのは単に迷子になったからではない。
給水タンクに水が足りなくなったからだ。
キッチンカーには水道が繋がっていないため、給水タンクと排水タンクが完備されている。
どちらも40Lずつ入れることができるが、調理や手洗いなどに使えばすぐになくなってしまう。
「今の残量が5Lなのか」
モニターを触っていると、タンクという表示があったことに気づいた。
【タンク】
給水タンク 5/40(L)
排水タンク 30/40(L)
そこには給水タンクの残量や排水タンクの容量が記載されており、すぐにわかりやすいシステムなっていた。
キッチンカーを受け取る時にタンクと電気に関しては少し面倒だからと聞いていたが、やっとそれが理解できた。
どちらも圧倒的に容量が足りない。
キッチンカーで調理するなら追加タンクと蓄電池や発電機を購入するようにと言われた。
電気に関しては今のままだと、コンロやフライヤーが長時間使えない。
店主は基本的にガスコンロを使用して、電気コンロはあまり使っていなかったらしい。
きっと仕込みを家でやってきて、ほぼ売るだけの形でやっていたのだろう。
今となっては安くしてもらったのもそういう意味があったのかもしれない。
「ゼルフ、川から水を汲んでくれ!」
俺はバケツをゼルフに渡して、水を入れてもらう。
ただ、これで水の問題は解決できたわけではない。
「さすがに飲むのは怖いよな……」
『魔物が住んでいるから仕方ないぞ!』
コールダックが言うように魔物が住んでいた川は水質が良いわけではないらしい。
魔物が住める環境ってことは、魔法の素でもある魔素をたくさん含んでいる。
イメージとしては酸素みたいな元素に近いものなんだろう。
「持ってきたぞ!」
俺はゼルフからバケツを受け取ると、すぐに火をかけていく。
なんと魔素は火にかけると、少しずつ減っていくらしい。
ちなみにこれも一般常識だとゼルフに言われた。
キッチンカーにある給水タンクは20Lのものが連結しているため直接使おうと思ったが、沸騰したお湯を入れると変形する可能性がある。
だからバケツで水を汲んで、沸騰したら違うバケツにまた戻してを繰り返す。
「これとこれの違いは何だ?」
「こっちはガスコンロだから火力が高いけど、数に限りがあるからね……」
そして問題は水だけではない。
電気コンロを使えばバッテリーが足りなくなってくる。
だから、店主はガスコンロで対応していたのだろう。
それでもガスコンロばかり使ってたら、今度はガスボンベがなくなってしまう。
数にも限りがあるから両方使って、今は川の水を沸騰させている。
「このフライヤーは使うことはなさそうだな」
振り向いた先にあるフライヤーが寂しそうに見える。
きっとほとんど使われることはなかったんだろうな。
冷蔵庫と冷凍庫を維持させるのにバッテリーを使っているから仕方ない。
「水、電気、ガソリン、寝床……問題ばかりだな」
キッチンカーがあればどうにかなると思っていたが、想像以上に大変になりそうだ。
キッチンカーで生活できる間には、どうにか人が住んでいるところには着きたい。
「それはステータスでどうにかならないのか?」
ゼルフの言葉にふとステータスを思い出す。
たしかにナビゲーション以外に項目がいくつかあった気がする。
俺はすぐに運転席に戻り、再びモニターを操作していく。
【ステータス】
キッチンカー Lv.1 ポイント:2
ナビゲーション 1
自動修復
キッチンカー拡張
調理器具拡張
電力拡張ユニット
冷蔵/冷凍拡張ユニット
給水タンク拡張
排泄拡張
ディスプレイ
♢次のレベルアップ条件:1日売上 10,000円到達
試しに給水タンク拡張に触れてみた。
――ポイントを振りますか? はい/いいえ
出てきたのはナビゲーションに触れた時と同じ画面だった。
記載してある通りなら、きっとポイントを振ることで給水タンクが大きくなるのだろう。
俺は〝はい〟に触れてみた。
――ドンッ!
「うぉ!?」
荷台部分からゼルフの声が聞こえてきた。
ゼルフには沸騰するまでコンロの管理をしてもらっていた。
俺はすぐに移動する。
「タンクが大きくなったか!」
「なんか上から落ちてきたぞ!」
ゼルフの手には20Lのタンクを持っていた。
それを連結させて使えってことだろう。
俺は再び運転席に戻りモニターを確認する。
これで給水タンクの容量は60Lになった。
「排水タンクは最悪その辺に流せばいいか……」
洗剤とかも入っているため環境にはあまり良くないが、最悪その辺に流せば空にすることはできる。
ただ、わざわざ表記されているのが気になって触れると、またモニターが切り替わった。
「全て濾過するまであと29時間26分……濾過機能付きなの!?」
予想もしていない機能付きに俺は声を出してしまった。
「ハルトどうした!?」
「わぁ!?」
今度はゼルフが荷台部分から急いでやってきた。
手には鞘から抜いた剣。
何かあったと思い警戒していたが、俺の反応を見てすぐに鞘に戻していた。
「何かあったのか?」
「いや……わざわざ火にかけなくても……って火元から離れるなよ!」
俺は急いでガスコンロを見にいくと、すでに火は止まっていた。
付いてきたゼルフに目を向けると、ニヤリと笑っていた。
「ちゃんと火は止めてきたぜ!」
そんなドヤ顔で言われてもな……。
ただ、その姿がどことなく子どもぽく見えた。
「良くやったな」
気づいた時には、キッチンカーの中に屈んでいるゼルフの頭を撫でていた。
いくら何でも怒るかと、顔をチラッとみたがゼルフは固まっていた。
「くくく、戸惑ってるな」
その姿が面白くて、俺はそのままゼルフの頭を撫で続けることにした。
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