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キッチンカーと巡る異世界グルメ~社畜と無愛想貴族、今日も気ままに屋台旅~  作者: k-ing☆書籍発売中
第二章 料理人は異世界で先生に

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53.料理人、親父に絡まれる

「もう戻ったらどうですか?」


 俺は今も食べ続けている領主たちに声をかける。


「いや、私はあいつには負けない!」

「俺もお前には負けたくないからな!」


 初めは気にしていなかったが、領主たちは何度もおかわりをしていた。

 初めはお子様セットが食べられない恨みかと思ったが、気づいた時には大食い選手権のように争っている。


「それにこんなうまい料理を食べられるのは今しかないだろ!」


 ブレッドンの領主はただ単にため喰いをしたいだけなのかもしれない。


「それならレシピをお渡ししましょうか? どちらも強力粉と薄力粉を使った料理なので作れると思いますよ」


 俺はここぞとばかりに微笑む。

 二人の問題はお互いの良いところを取り入れないことだ。

 フロランシェは少しずつ気づいているだろうが、ブレッドンはそんな簡単に――。


「本当か! いやー、こんな美味いものが食べられるなら薄力粉の準備をしないといけないな」

「はぁん……?」


 フロランシェの領主が驚くのも無理はない。

 今までの状況をあまり知らない俺でもびっくりしているからな。


「ひょっとして意地を張っていただけですか?」

「まぁ、こいつが何でも競ってくるからな」

「それはお前の方だろ!」

「なんだと! じゃあ、次はあそこにどっちが先に着くかだな」

「わかった!」


 そう言って二人はデザートの準備をしているテーブルまで急いで走って行った。

 子どもみたいな二人を見て呆れてくる。

 でも、二つの領地の関係性が良くなるのは、思ったよりもすぐなのかもしれない。


「本当に慌ただしい人たちだな」

「そうだな」


 ゼルフはそんな二人の後ろ姿をどこか羨ましそうに見ていた。

 今まで仲の良いやつがいなかったって言ってたからな。


「ラーメンでも食べるか?」

「ああ……いや、俺はお子様セットがいい」

『オイラも!』

「お子様セットだと足りないぞ? お前らなら食いしん坊セットになるだろうな」


 頑張って働いた食いしん坊たちに、俺はオムライスとラーメン、それにうどんの炭水化物のセットを作ることになった。

 それもトッピング全盛りで大盛りだ。

 どこにそんなに入る胃袋があるのだろうか。


「やっぱりハルトの飯は最高だ!」

『クゥエエエエエ!』


 俺の料理を食べて喜んでくれるなら、それは料理人としては嬉しいことだ。


「もう少し静かに食べたらどうだ……?」

「こんなに美味いもん食べて静かにできないだろ」

『そーだ! そーだ!』


 その後も美味しそうに食いしん坊セットを平らげていた。


♦︎


 キッチンカーの片付けが終わり、ゆっくりと休んでいた。


――トントン!


「ハルトさん、今いいですか?」


 扉を開けると料理長が立っていた。


「何かあったのか?」

「領主様がお呼びです」


 メイドや執事ではなく、料理長が直接来たから何かあったのだろうか。

 俺は料理長とともに領主の元へ向かう。


「領主様、ハルトさんをお連れしました」


 料理長とともに部屋の中に入ると、領主の二人は椅子に腰掛けて待っていた。

 二人ともどこか難しい顔をしている。


「あぁ、ハルトさんそこに腰掛けてください」


 俺は言われた通りにソファーに座る。

 何か問題があったのだろうか。


「ハルトさん、どっちの領地が欲しいですか?」

「はぁん!? ついに頭がおかしくなったんですか!?」


 ついつい思っていたことが口に出てしまった。


「領地はいらないし、もちろん婚約者になるつもりはないですよ」

「チッ!」


 先手を打ったら、フロランシェの領主から舌打ちが聞こえてきた。


「お前もしかして……」

「いつもの冗談だ。婚約者は一人でいいしな」

「もし本音ならお前を殴っていたぞ」


 それを聞けて満足だ。

 いつも冗談は言わないと言いながらも、冗談ばかり言っているから分かりづらい。

 それにブレッドンの領主もいるからこそ、婚約者の件は冗談だと信じることができる。

 さすがに同じ人を愛したライバルが目の前で男を紹介したら、複雑を超えて何とも言えない感情になるだろうからな。


「領地に関しては――」

「絶対にいりません!」

「なら、ブレッドンは?」

「知らない土地はもっといりません!」


 この人たちは隙があればすぐに領地を渡そうとしてくる。

 俺の反応を見て、ニヤニヤしながら楽しんでいた。

 まるで飲み会で上司に絡まれている気分だ。


「面白いやつだろ?」

「あぁ、我が領土にも欲しいぐらいだな」

「なっ!? ハルトさんはフロランシェのものだからな!」

「決めるのは兄ちゃんだぞ?」

「「さぁ、どっち?」」


 この人たちはお互いに競うことしかできないのだろうか。

 ただ、必要としてもらえるのは嬉しい限りだ。

 今まで俺の料理を必要としてくれる人はいなかったからな。

 この世界に迷い込んで良かったのかもしれない。

 だけど――。


「どちらもお断りします」

「ほら、言っただろ? 領地くらい必要だって」

「領地が足りないなら、もう己を差し出すか……」

「婚約者にはなりませんからね!」


 もう何度も同じツッコミをしていて辛くなってきた。

 隣にいる料理長なんて外を眺めてボーッとしているからな。

 

「地図をもらえるならそれでいいです」

「おぉ、そうだった!」


 フロランシェの領主は忘れていたのか、棚から大きな紙を取り出してきた。


「地図はちゃんと準備しておいたぞ」


 準備できていたなら、早く出してくれよ。

 時計を見たらすでに30分は経っているからな。


「じゃあ、これで俺の役目は終わりですね」

「なっ!? もう旅立つのか?」

「俺の仕事はキッチンカーなんでね!」


 いつまでもここにいたら、ずっと引き止められそうだ。


「ラーメンとうどんに関しては料理長にレシピを渡してあるので……あとは頼むぞ!」


 俺はボーッとしている料理の肩を叩いてキッチンカーに戻ることにした。

 地図をもらったから、次の出店場所を探して旅をするだけだ。

 部屋から出ると、外にも二人の領主の声が響いていた。

 料理長……頑張れよ!

お読み頂き、ありがとうございます。

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