50.料理人、子どもの扱いもできちゃいます
「今回も楽しみにしているよ」
「相変わらず嫌味が多いやつだな」
穏やかに話している姿をキッチンカーから眺める。
そこまで関係性は悪くなさそうな気はするが……。
「前回はブレッドンのパンに驚く姿が面白かったぞ」
「はぁん? 私がいつ驚いたって言うんだ? 今回はきっとお前がびっくりすると思うぞ」
「ああ、そうなるといいな」
いや、俺の勘違いか。
いつも穏やかな領主が少し怒っているような気もする。
「あの……今日はありがとうございます」
「いえ、こちらこそ父が申し訳ない」
一方、ショートとブレッドン側の息子は大人の対応をしていた。
どっちが親なのかわからないくらいだ。
それにブレッドンの婦人は小さな子どもに手を焼いていた。
「貴族ってあれが普通なのか?」
「……さぁ、俺にはわからないな」
どこか遠い目をしているゼルフに俺は肩を組む。
極道だと貴族よりも厳しく育てられていそうだし、仲良さそうなところを見ると、胸が締め付けられるんだろうな。
「まぁ、お前には俺と白玉がいるじゃないか」
『クゥエ……? オイラはずっとここにいたぞ?』
足元にいる白玉は首を傾げていた。
いや、そういうわけではないんだけどな……。
「くくく、俺が落ち込んでいると思ったのか?」
「いや、何となくな。まぁ、落ち込んでいないならわたあめは作らなくていいか」
俺はチラッとゼルフの顔を見ると、目を大きく見開いていた。
「なんだそのわたあめってやつは! 俺はすげー落ち込んでいるぞ! あー、落ち込んでる。落ち込みすぎて地面になりそうだ」
『オイラも落ち込んでるぞ! ほら、地面に落ちてる!』
なんか白玉は勘違いしているし、ゼルフは本当に食べたいから作ってくれと土下座しそうな勢いだ。
俺はずっとドタバタしているブレッドンの小さな子どもが目に入った。
せっかく庭園で食事をするにも、落ち着いて食べられないだろうし、婦人の顔も疲れていた。
それなのにフロランシェもブレッドンの領主もお互いに啀み合っている。
「それでその……わたあめってなんだ?」
「俺も昔に作ったことあるけど上手くできるかな」
俺は鍋に砂糖と水を入れて加熱する。
作るのはよくある飴なんだけどな。
カチカチになるまで煮詰めると、テーブルの上にクッキングシートを敷いて準備完了だ。
「ちょっと離れていろよ」
俺はフォークに飴をつけて、空中で左右に振って糸を飛ばす。
これがわたあめの機械を使わずに作るのに必要な工程だ。
ふわりと糸状になった飴をそっと集めて、割り箸に絡めていく。
これを何度も繰り返せば、手作りわたあめの完成だ。
「ほら、食べてみろ!」
どこか落ち込んでいるゼルフに手渡すと、目を輝かせていた。
作っている最中も興味深そうに見ていたからな。
「なっ! 口に入れた瞬間、フワッてするけど、カリカリしてうまいな」
機械で作るわたあめは、砂糖を回転させることで遠心力で糸状にする。ただ、手作業では遠心力が足りないため、少し太い糸のわたあめになってしまう。
口に入れて溶けるわたあめとは違い、飴感が強くなってしまうのが難点だ。でも、それが良かったりもする。
『オイラも!』
「ああ、もう少し待ってろよ」
俺は白玉の分も作るとすぐにお皿の上に置く。
『おっ……なんか食べずらいぞ……?」』
「そりゃー、突いていたらそうなるわな」
突いた瞬間、わたあめの形が崩れていく。
白玉にはちゃんとしたわたあめじゃないと食べにくいだろう。
「じゃあ、ちょっと言ってくる」
「んっ、お前どこにいくんだ?」
「あそこに!」
俺はニヤリと笑って小さな子どもに近づく。
正直、ご飯を食べる前の雰囲気としては、少し落ち着かないからな。
せっかくの美味しいご飯を食べるには、前段階の準備が必要だ。
「失礼します。よろしければ一口召し上がりませんか?」
俺は軽く頭を下げて、小さな子どもの目の前にわたあめを見せる。
「これにゃに?」
「わたあめと言います。もうそろそろお食事が来ますので、少しばかりお楽しみください」
「うん!」
子どもにとってフワフワした見た目の物は興味がそそられるだろう。
嬉しそうにわたあめを持つとパクッと口に入れる。
「わぁー、あみゃいね!」
「ふふふ、良かったです。また食べたかったら、あそこにいますので声をかけてくださいね」
俺はキッチンカーの方を指をさして、ちゃっかり宣伝をする。
ただ、興味を持ったのは子どもだけではない。
「あれは何だ?」
「魔導具のキッチンカーです。お食事の後に、少しばかりお腹に隙間があれば美味しいスープと小麦粉で作った麺というものを提供しています」
「ほぉ、あれが魔導具なのか。ちょっと見てくるか!」
ブレッドンの領主はもう行く気満々なんだろう。
だが、もう料理の準備はできている。
「まだ準備中ですので、もうしばらくお待ちください」
「あぁ、そうか。つい焦ってしまう性格だからな」
嫌味ぽくフロランシェの領主を見ていた。
きっと好きな人を奪われたからの一言なんだろう。
ただ、あの領主はそんなこと気にしない。
「私の分はないのか?」
「……わたあめですか?」
「ああ、あれが美味しそうに見えたからな」
「私も気になりました」
さすがフロランシェの親子。
俺が作る物は何でもすぐに興味を持つからな。
「またあとで作るので楽しみにしててください。では、楽しいお食事の時間をお楽しみください」
俺はすぐに料理を出せと、料理人たちに目配せをする。
どうしようかと後ろでワタワタとしていたからな。
俺はその場で頭を下げてキッチンカーに戻っていく。
これでキッチンカーの宣伝はうまくいっただろう。
俺は嬉しそうにわたあめを頬張って静かに座っているのを再びキッチンカーから眺めていた。
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