49.料理人、新しい機能を解放する
その後も料理人たちと勉強をしながら準備をして、領主会議当日がやってきた。
料理人は朝から仕込みで忙しそうにしている。
「向こうの料理人は来ないのか?」
「きっとある程度作ってきますよ。毎回のことなので……」
領主会議は毎回どちらかの屋敷で行われている。
厨房を貸し出すのかと思ったら、歓迎される側が事前に準備して持ってくるらしい。
あまり持ち込みもできないから、フロランシェ側が歓迎しないといけないってことだ。
「じゃあ、俺は見守っているから頑張れよ」
「「「はい!」」」
料理人たちの声が厨房に響く。
俺もキッチンカーに戻って、仕込みをしないといけないからな。
って言っても麺と出汁はできているからほとんど問題ない。
付け合わせのトッピングや天ぷらの準備ぐらいだ。
「なぁ、ゼルフ……お前おかしくなったのか?」
キッチンカーに戻ると、仮面をつけたゼルフがいた。
まるで仮面武道会にでもいくつもりなんだろうか。
「いや、俺がいたら誰も近寄らないからな」
「その顔……気にしていたんだな……」
まさか顔でお客さんを怖がらせることに気づいていたとは思いもしなかった。
フロランシェの領主やショートは慣れているが、ブレッドン側がどう思うかはわからないからな。
忘れていたけど、俺たちフロランシェに来たすぐに捕まっていたからな。
「まぁ、ゼルフは良いやつだぞ」
「おっ、俺のことよくわかってるじゃん!」
ゼルフの肩を叩いて慰めたはずだが、何も思ってなさそうだ。
それがゼルフの良さでもあるのだろう。
「時間はあるから、何か準備をしようかな」
久しぶりのキッチンカー営業に俺の胸は高鳴っている。
今までずっと厨房で教えるばかりだったからな。
カレーを死ぬほど作って売っていたのが懐かしい。
「カレーうどんとカレーラーメンもいいかもや」
ついでならスパイスを使った麺類も準備するのもいいだろう。
そうなるとメニューが増えるから、メニュー表があった方がわかりやすい。
ただ、俺はこの世界の文字は書けないしな……。
「ゼルフって文字書けるか?」
「当たり前だ」
俺は紙とペンを渡して、ゼルフにメニューを書いてもらうことにした。
「まずはうどんって書いてくれ」
「うど……おっ、このペン書きやすいな!」
ゼルフはボールペンの書き心地に驚いていた。
日本の製品ってしっかりしているからな。
だが、俺は違うことに驚いていた。
「お前って……文字書くのが苦手なのか?」
「なっ……そそそ、そんなはずはねーよ!」
「いや、明らかにこれはミミズだろ?」
「ミミ……ズ?」
ゼルフは自分の耳を触っていた。
いや、耳とミミズは全く別物だからな。
この世界の文字は角張っていることが多く、どちらかといえばアルファベットをカクカクさせたものに近い。
ただ、ゼルフが書いたのは筆記体のようなアルファベットだった。
「何か良い機能が……あっ、確かステータスに――」
俺はすぐに運転席に戻って、久しぶりにステータスの確認をする。
【ステータス】
キッチンカー Lv.6 ポイント:4
ナビゲーション 2
自動修復 3
キッチンカー拡張 3
調理器具拡張
電力拡張ユニット 2
冷蔵/冷凍拡張ユニット
給水タンク拡張 2
排泄拡張 2
ディスプレイ
◇次のレベルアップ条件:1日売上 300,000円到達
「一番使うことがないと思ってたディスプレイに振ってみるか」
イメージでは看板が出てくるか、キッチンカーが宣伝トラックになると予想している。
よく夜のお店を紹介しているような……。
いや、あそこまでうるさいのになったら、すぐにここから逃げることになりそうだ。
そんなことを思いつつ、ディスプレイにポイントを振ることにした。
「うぉ!?」
外からゼルフの驚いた声が聞こえてきた。
何か変化があったのだろうか。
「ゼルフ、何かあったか?」
「ハルト、ここここれはなんだ!」
ゼルフが指さしているところには、本当にそのままの通りディスプレイが追加されていた。
ちょうどよくゼルフや白玉が覗く窓の隣だ。
買いに来た人たちがメニューを見える仕組みになっているのだろう。
それに――。
「タブレットで設定しろってことか?」
カウンターの上にはタブレットとペンシルが置かれていた。
しかも、丁寧にシガーソケットから充電できる仕組みになっている。
「これ触ってもいいか?」
「たぶん問題ないぞ」
ゼルフが恐る恐るタブレットに触れると、ディスプレイに点が描かれていた。
どうやらタブレットで何か記載すると、ディスプレイに表示される仕組みなんだろう。
「なぁ、紙にメニューを全て書いてもらってもいいか?」
「文句言わないか?」
「あー、たぶん言わないぞ」
ゼルフにジーッと睨まれるが、俺はその場で微笑んだ。
たぶん! きっと! 何も文句は言わないだろう。
「本当になんて書いてあるかわからないな」
「やめるぞ?」
「いや、俺が読めないだけだからな」
手を止めるゼルフをすぐにフォローする。
俺はゼルフの文字を見ながら、見よう見まねでタブレットに書いていく。
「ふん、ハルトは字が汚いんだな」
ゼルフには言われたくないが、なんて書いてあるかわからないから仕方ない。
俺がわかりやすいようにその隣に(うどん)っと記載する。
「んっ? 変換機能があるのか?」
そのまま押すと、(うどん)が勝手に変わっていく。
「これって何て書いてある?」
「あぁ、うどん……っていつからこんなに字が上手くなったんだ?」
どうやら日本語からこっちの言語に書き換えてくれるらしい。
それにフォントの種類もたくさんあるから、それにあったメニュー表が作れそうだ。
俺はその場で絵を描きながら作っていくと、立派なメニュー表が完成した。
「ハルトって料理以外も才能があったんだな……」
「看板作りは料理人にも必要な才能だからな」
綺麗に並べられた文字に描かれたラーメンとうどん。
これでも学生の頃に絵画コンクールで賞をもらったことがあるくらいは絵が描けるからな。
よく働いている時もチョークでメニューを書かされたのを思い出した。
「おっ、ついに領主会議が始まるらしいぞ!」
フロランシェの領主やショートたちが揃って屋敷の中から出てきた。
どうやら庭園で食事をするらしい。
俺たちはすぐにキッチンカーの中に戻り、準備をしながら料理人たちを見届けることにした。
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