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キッチンカーと巡る異世界グルメ~社畜と無愛想貴族、今日も気ままに屋台旅~  作者: k-ing☆書籍発売中
第二章 料理人は異世界で先生に

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48.料理人、結果良ければ全てよし

「ほらよ、ラーメンいっちょ上がり!」


 俺はぶっきらぼうにラーメンをテーブルに置いていく。


「ハルト、どうしたんだ?」

『熱でもあるの?』


 ゼルフと白玉は心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。

 恥ずかしくなった俺は額に巻いてあるタオルを外して、食いしん坊組に目掛けて投げた。


「せっかくの雰囲気が台無しだ! ラーメンと言ったらこれだろ!」


 せっかくキッチンカーでラーメンを作るなら、ラーメン屋の頑固店主になりきろうとしたら、する前に断念することにした。

 まさか心配されるとは思いもしなかった。


「やっぱりハルトって変わってるよな」

『オイラもそう思うぞ』


 俺にとったら目の前にいる極道と話すコールダックの方が変わっているぞ。

 しかも、ラーメンを啜って――。


「『うんっめぇー!』」


 大声ではしゃぐぐらいだからな。

 見た目と中身にギャップしかない。


「こんなうまいもん隠していたとはな!」

『もっと早く作るべきだったぞ!』


 目を少年のように輝かせて、ラーメンを食べている姿を見ていると、作っている身としては嬉しい。

 こんな簡易的な家庭で作るラーメンに近いのに、喜んでもらえるとは思ってもいなかった。

 専門的なラーメンを食べたら、震えて倒れるかもしれないな。


「お前らもう少し静かに食えないのか?」


 そんなに大きな声を出したら、あの領主に気づかれ――。


「私にも食べさせてくれないか?」

「私もー!」


 気づいたら領主とショートも椅子を持ってきて座っていた。

 この二人もなぜ普通に馴染んでいるのだろうか。

 そもそも強力粉メインの食べ物なのに提供しても大丈夫なんだろうか。


「あのー、これには強力粉が含まれてまして――」

「なんだって!? 私にそんなもの食べさせる気か!」


 領主はその場で立ち上がり、睨みつけるように俺を見ている。

 ほら言わんこっちゃない。

 やはりキッチンカーを出すことすら、考えた方が良いようだ。

 そう思い、ショートを見るが彼女はニコニコとしていた。


「ってのは冗談で話はショートから聞いているよ」


 ショートを見つめる領主の目が優しくなった。

 父を思う子どもの姿に協力することにしたのだろう。


「だから、私にもこの美味しそうなやつをくれないか?」


 相変わらず領主も食いしん坊なんだろう。

 見習い料理人の料理対決をするってさっきまで張り切っていたけど、この後に夕飯を控えている。

 本当にラーメンを提供しても大丈夫なのか?


「そういえば、領主様って冗談を言わないとか言ってなかったでしたっけ?」

「そうだ。冗談は言わないから……どうだ婚約者か領主どっちがいいんだ?」

「あー、冗談しか言わないのはわかったので大丈夫です」


 冗談なのか冗談じゃないのか、いつも真面目な顔で言うから判断しにくい。

 もうこの際、全て冗談ということにして流した方が楽だろう。

 俺はさっと流してラーメンを作りにいくことにした。

 とりあえず黙らせるには、食べさせた方が良さそうだしな。


「ほらよ、ラーメンいっちょ上がり!」

「まだそれをやるんだな……」

『ハルトは変わってるぞ』


 その後もゼルフと白玉に心配されながらも、試作品のラーメンを出した。

 食いしん坊組はしれっと二杯目も食べていたけど、お前らもこの後の夕飯大丈夫なのか?



 時間は進み、夕方になると厨房は大忙しになっていた。


「くそ、時間が足りないぞ!」

「スープだけは完璧だな」

「デザートなんてなしでもいいんじゃないのか?」


 各々、時間に追われているようだ。

 その中でもゆったりと時間配分をして、作り終えていたのが料理長だった。

 久しぶりに自分で作ったからか、楽しそうにニコニコとしていた。


「もう時間だ! 今できた分を出すぞ!」


 俺は容赦なく作業の手を止めさせた。

 元々、時間は確保していたし、何を作るのかは各々に任せてある。


「なっ!? こんな料理、領主様に出せるかよ!」

「もうデザートはなしだ!」


 これでどうなるかは文句は言えないだろう。

 料理人たちはすぐに領主の元へ料理を運んでいく。


「3つがトマト煮で一つがクリーム煮か」

「スープもほとんど似たようなものだけど……」


 出されていく料理は合わせたのかと言いたくなるほど、ほとんどが同じメニューだった。

 今まで領主が美味しいと言ったものを中心に揃えたのだろう。


「味は真ん中のやつの方が美味しいけど、同じようなやつばかりだと飽きてくる」

「私はもういらないです。デザートが食べたい」


 好みに合わせて作れるのは良いことではあるが、それが良い方向に働く場合もあれば、うまくいかないこともある。

 さっきまでラーメンを食べていたから、尚更食欲がないのかすぐに手が止めてしまった。

 その中で一番目立っていたのは料理長だ。


「俺はこれが好きだぞ」

『オイラも!』


 見習い料理人とは違って、全体のバランスを考えて味に変化をつけていた。

 やはり料理長ができるだけの実力は持っている。

 味覚の基準も味付けの仕方もしっかり俺が教えたからな。

 正直、厳しいと思うぐらい伝えてはいる。


「じゃあ、最後にデザートだ」

「2品だけなのか……」

「きっとこっちはあなたので、こっちは料理長ですよね?」


 デザートに出てきたのはしっかりと作り込まれたケーキと簡単なレモンゼリーだった。

 料理長は味のバランスを考えて、最後はさっぱりするようにレモンゼリーを出したのだろう。

 ただ、目の前の光景に俺も申し訳なく思ってしまう。


「材料が無駄になったな……」


 俺がラーメンなんか食べさせるから、領主とショートはほとんどの料理を残していた。

 一方、食いしん坊組はほとんど完食しており、胃袋がブラックホールになっているんじゃないかと心配になってきた。


「結果を発表する」


 領主はメインから順に何が一番美味しかったのか伝えていく。

 だが、そのほとんどは料理長が作ったものだった。

 これで領主会議は料理長が全て作ることになるだろう。

 まぁ、料理長と見習い料理人だと差は歴然だからな。


「選んでいただきありがとうございます。ですが……私はお断りさせていただきます」

「はぁん!?」


 料理長の言葉につい俺は言葉を失った。

 あれだけ自分で作りたいと言っていたのに、結果が出たら満足ってことか?

 そんな自分勝手なことは――。


「やはり私一人では作りたいものが満足にできませんでした。時間も足りなければ人手も足りません。今回、それはみんなも思ったでしょう」


 料理長はバランスを整えるために料理を提供していた。

 ただ、そのどれもが自分が作りたいものではなく、時間に間に合うものを優先的に作っていたと。

 だから、デザートは何の工夫もないレモンゼリーになったのだろう。

 やはり料理長を管理役としたポジションに置いたのは正解だった。


「俺もわがまま言ってすみません。やはり一番慣れたデザートだけは負けたくないって思ってしまいました」


 各々の一番作り慣れた料理で手を抜くことは料理人としてできなかったのだろう。

 その結果、他の料理がお粗末になってしまったものもある。

 メインとスープ担当はデザートすら作るのをやめていたからな。


「みんなが気付けたならそれでいいだろう。ハルトさんもそれを教えるために、一人で作らせたんだろ?」


 領主の言葉に俺に視線が集まってきた。

 正直、何も考えずに実力で争えば良いじゃんと提案していたとは口が滑っても言えない。


「ははは、そうですね」


 俺はとりあえずその場は笑って誤魔化すことにした。

お読み頂き、ありがとうございます。

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