46.料理人、試食会をする
「じゃあ、メイン、スープ、パン・デザートと担当で分ける」
俺は適当に見習い料理人に担当をつけた。
「あのー、私は何を――」
「料理長はもちろん全てです。全部の監修と味の確認をお願いします」
料理長にそんな簡単なことをさせるはずがない。
「私がするんですか?」
「ええ、昨日もちゃんと食べていましたし、作り方を見ていましたよね?」
「あっ……はい」
全て覚えてもらわないといけないし、味の微調整と最終判断は料理長の仕事だからな。
それに担当と言っても、全員に同じように学んでもらわないといけない。
あとは各々作ってもらいながらアドバイスをしていく。
メニューやレシピに関しては、俺が直接何かをするつもりはない。
そこまで手出しをすれば、きっとまた面倒なことに巻き込まれそうな気がするからな。
あくまでアドバイスと己の味覚で作ってもらう。
「ハルトさん、さっきの旨味についてですが、トマト、お肉、きのこで煮たら美味しいものができますか?」
「おっ、良いところに目をつけているな。一度それでやってみて調整してみようか」
実際にイタリアン料理の煮込み料理はトマト、お肉、きのこを使っているものが多い。
あとは味をコンソメや塩で整えりすると、かなり美味しいものができる。
「スープは別の味付けの方がいいですよね?」
「スープはブイヨンを作るところ覚えようか。牛乳や羊乳、野菜を入れるだけで、色んな物ができるからな」
昨日のクリームシチューもコンソメスープよりはブイヨンに近い。
ブイヨンができれば、コーンポタージュ、ビシソワーズができる。
それにトマトベースやたくさんの野菜を入れたら、ミネストローネやポトフもできるからな。
ブイヨンから本物のコンソメスープができたら、最高の料理人になれるだろう。
「パンとお菓子はどうしましょうか?」
「あー、そこが一番難しいところだよな」
どうしてもパンってなると、強力粉がないと柔らかいものになる。
目分量で作れるほど簡単な物ではない。
むしろ俺も料理の中で一番お菓子が苦手だからな。
シェフとパティシエで、全く違う分野だってこともある。
それだけお菓子を作るのは厳密さが必要だし、タイプが異なる。
「まずは基本的な物を教えるから、デザートに応用できるものにしようか」
スコーン、パンケーキ、サブレやクッキーぐらいなら俺でも教えられるからな。
あとは――。
「料理長は覚えられそう?」
「あっ……ああ」
少し怪しそうな雰囲気を感じるが、ここは覚えてもらうしかない。
それに結局レシピは教えてないが、基本的な作り方は教えないといけない。
夕食どきになり、俺たちは作ったものを運んでいく。
「緊張しますね……」
「まさか領主様に食べてもらうとは思わなかったです」
「まぁ、たくさん作ったからな……」
厨房で料理を教えていたところに領主が顔を出した。
せっかくだからとみんなで試食会をすることになったが、見習い料理人には初めての経験でビクビクしている。
いくつか俺も見本で作ったものもあり、味を比べるにもちょうど良い。
「今日はたくさんあるんだな」
『おかわりできるぞ!』
ゼルフと白玉はたくさん並べられた料理に釘付けになっていた。
盛り付けも綺麗に見えるように注意は払っている。
タイミングよく提供したかったが、試食会だから仕方ない。
「この中にはいくつか俺が作ったものもありますが、ほとんどはこの屋敷で働く料理人たちが作りました。正直な感想をぜひ彼らにお伝えください」
そう伝えて、試食会が始まった。
料理人たちも額から汗を流して、その様子を眺めている。
「んっ、このトマトの煮込み料理は私好みだな」
「私はこの茶色のシチューが好きです」
見習い料理人の作ったものでも、まずまずの反応は得られたようだ。
普段から料理長の料理を食べているから、前よりは美味しくなったって反応だろうか。
「んー、何か物足りないから、こっちから向こうはここの料理人が作ったやつだな」
『オイラもそれぐらいわかるぞ! 食べにくいからな!』
俺の料理を食べ慣れているから、ゼルフの言葉通り全て合っていた。
白玉なんて見た目で判断していたくらいだ。
いや、俺だけが白玉用に食べやすいサイズで切っていたのを忘れていた。
「確かにハルト様が作ったのは美味しいわね」
「奥が深いというのか、味のバランスが整っている」
ほとんどの味付けは自分たちでやってもらってる。
明らかにおかしいものだけ、口出しをしたくらいでほとんどは料理人の味覚頼りだ。
「そこが俺との違いになりますね。領主会議に向けて、もう少し勉強してもらおうかと思います」
旨味を意識しただけで、俺が食べてもまずいとは思わない。
ただ、美味しいとも言えないのが現実だ。
食べられるけど、好んでまでは食べないってところ。
「あぁ、材料に関しては必要であればいくらでも用意をしよう」
領主にとってもフロランシェとブレッドンの領主会議はかなり重要なんだろう。
俺の中では代々続く三角関係のイメージしかない。
「ハルト、おかわり!」
『オイラも食べるぞ!』
「はぁん!? お前ら食べきったのか?」
ゼルフと白玉を見ると、大きく頷いていた。
テーブルに置いてある料理をしっかりと完食していた。
「ははは、しばらくは試食会でも問題はなさそうだな」
「我が家の食いしん坊がすみません」
あまり関わりたくはないが、俺もキッチンカーで提供するものを考えないといけない。
しばらくはお世話になりそうだ。
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