44.料理人、相談される
「んー、教えるって言っても何を教えればいいんだ……」
100万ルピはするって言われた地図と取引するなら、しっかりと料理人に知識と技術を身につける必要がある。
ただ、この世界に来てみて思ったのは、料理技術云々よりも、味の仕組みや素材の扱い方が全く理解できていなかったことだ。
そもそも味は舌にある味蕾で感知している。
舌の感覚の違いを感じるか確認したほうが良いのだろう。
俺はコップをいくつか用意して、そこに水を入れていく。
そして、塩を少しずつ入れて食塩水の塩分濃度が違うものをいくつか用意した。
同じように砂糖で甘味、酢で酸味の濃さを変える。
全部でコップが15個。
「ハルト、これで何するんだ?」
「味の基準となる濃さがわかるように、味覚を鍛えようと思ってだな」
「んっ? どういうことだ?」
俺はコップを5つゼルフの前に出す。
「これを少しだけ舐めて、薄いものから濃い順番に並び替えてくれ」
コップをバラバラに並べ替える。
ゼルフは少しだけ食塩水を口に含み、コップを順番に並べていく。
「おっ、ゼルフは濃い味付けはわかりやすいんだな」
通常の食塩水を3だとしたら、ゼルフは21345の順番でコップを並べた。
この時点で塩味の薄いものに関しては、曖昧なのがわかる。
大きく味覚がかけ離れているわけではないようだ。
もしゼルフが料理をすれば、味が濃いものであれば作ることはできるが、薄いものは味の濃さにばらつきが出てしまう。
毎日しょっぱい料理ばかり作っていると、塩味に対して鈍くなったりするからな。
そのために軽量スプーンやキッチンスケールを使って分量を一定にして味の濃さを調整するが、結局最後の微調整は己の舌ですることになる。
「意外に難しいんだな」
「これはまだ簡単なほうだぞ?」
難易度が上がれば濃さを10や20に分けて、本当にわずかな濃さを判別できるようになるまでやる料理人もいる。
あとはこれをスープや出汁でやって、味が薄いのか、それまた濃いのかを判断したりと味を混ぜて訓練し、違いにシビアになれば味付けは変わってくるだろう。
「あとは旨味がなにかを教えて、火力の変化や温度の違いを伝えればどうにかなるか?」
思ったより教えることはたくさんありそうだ。
いくら料理の作り方やレシピを教えても、再現できなければ意味がないからな。
そんなことを思っていると、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
「ショートです。少しいいですか?」
扉を開けるとそこにはショートが立っていた。
ただ、どことなくいつものような元気な姿はなかった。
「中に入りますか?」
俺の言葉にショートは頷くと、ゆっくりとソファーに座るように勧める。
「あのー、これは何ですか?」
「あぁ、味覚を鍛えるためにやってたんです」
「本当に熱心なんですね」
これは熱心と言ってもいいのだろうか。
料理人なら当たり前のことだし、100万ルピの地図をもらうならそれだけのものを教えないといけない。
「ハルトって見た目より真面目だよな?」
「ゼルフがそれを言うか?」
どちらかといえばゼルフの方がツッコミどころは多いけどな。
俺は寝ている白玉を抱きかかえると、ショートの元へ持ってくる。
「あれ? 白玉と遊びに来たんじゃなかったのか?」
「いえ、少し相談があって……」
白玉に癒されに来たのかと思ったが、俺の勘違いだったようだ。
ショートって白玉と遊んでいるところをちょくちょく見かけていたからな。
「何かあった?」
「みなさんは私のお母様がいないことに何か思いましたか?」
俺はゼルフと顔を見合わせる。
そういえば、領主の姿は見ていたが、ショートの母親は見ていない。
あまり俺たちが屋敷の中を出歩かないのもあるが、特に気にしてはいなかった。
「今度の領主会議にお母様が関係する――」
「俺はお母さんになれないぞ?」
さすが料理ができるからってお母さんの代わりになることはできない。
それにいくら何でも女装できるような見た目でもないからな。
「ふぇ……!?」
「くくく、ハルトってやっぱ真面目というか天然だな」
ただ、二人の反応を見ていると違ったようだ。
「えーっと、話を続けて」
「はい。私のお母様は現ブレッドンの領主様とお父様がお互いに取り合った関係なんです」
「三角関係ってやつか……」
ショートの話だとお互いの領主がショートの母親を気に入り、アプローチした結果、フロランシェの領主と婚約した。
そうなると、小麦粉の争いだけではなく、恋敵にもなるってことだ。
「そもそもお母様は私を産んで亡くなったんです。だから、私のせいで余計に仲が悪く――」
「いや、それは違うぞ」
ゼルフはショートの言葉を遮った。
俺もそれはゼルフと同じ考えだ。
ただの恋敵でそこまで領主同士が仲が悪いわけない。
まぁ、因縁の相手ではあるだろうが……。
「でも……代々お祖父様もそのお父様もその三角関係ってやつで……」
まさか代々恋敵になっているとは思いもしなかった。
そこまでいくと呪われた血筋かと思ってしまう。
「俺からしたらお互いに張り合っているだけで、同じ人を好きになったのは偶然じゃないのか?」
「そうだといいんですか……」
「ブレッドンの領主様の子どもは女性なのか?」
「いえ……なぜか私たちの代では性別が違うんです」
それなら尚更、気にしなくてもいい気がする。
代々続いていた恋敵問題はこれで決着するだろう。
どちらかが同性愛者じゃなければの話だが……。
「だから、ハルト様にお願いがあって……」
「お願い?」
「よかったら強力粉と薄力粉を使った料理を提供してもらえませんか?」
強力粉と薄力粉を使った料理って言ったら、うどんやラーメンと言った麺類になるだろう。
パンも食感をふんわりさせたり、軽めにしたい時は薄力粉を混ぜることはよくある。
「領主は知ってるのか?」
「いえ……」
「それなら俺は勝手なことできないな」
きっと俺が勝手なことをして、お互いの関係を悪くするわけにはいかない。
それに今回は料理人に指南するのが俺の役目だ。
「そうですか……」
「ただ、キッチンカーならやれるぞ? ショートからの依頼ってことならね?」
俺はニコリと笑う。
キッチンカーを依頼されて、参加していれば特に何か言われることはないだろう。
個人の都合になるだろうしな。
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