43.料理人、商売の基本は金儲けだ
「最後はデザートのミルクレープです。薄力粉で作った薄い生地を何層にも重ね合わせ、間にはクリームと果物を挟んでおります」
最後にデザートとして出したのはミルクレープ。
生クリームとカスタードクリーム、様々な果物を挟んでいる。
ミルクレープ一つで季節の果実を閉じ込め、宝石箱のように表現して作ってみた。
我ながら上手くできたと思っている。
「そのまま召し上がっていただいても問題ございませんが、一度、横に倒していただくとクリームが飛び出しにくく、より食べやすくなっております」
クリームと果物を多く入れることで、自然と高さが出てしまう。
ミルクレープは普通のケーキのように、上からフォークを刺すとクリームが飛び出して食べにくい。
俺は家で食べる時はクレープ生地を一枚ずつ剥がして、巻いていく派なんだけどな。
フォークを入れた瞬間、薄いクレープ生地から果物の溢れ出てくる。
領主は思わず息を呑み、ショートは目を輝かせて身を乗り出していた。
「……これは……芸術だな」
「お父様、見てください! この層……ひと口で全部の味が楽しめるなんて、幸せ以外の何物でもありませんわ……!」
慎重にフォークをすくい上げると、果物の艶やかな断面がきらりと光っていた。
そして二人は同時にそっと口へ運ぶ。
「これは……」
「お父様……私、ハルト様と婚約しますわ! もうこの人なしでは生きていけません!」
「そうだな……。これが食べられるなら、私が婚約しても良いぐらいだ」
「何言ってるんですか!」
ついつい俺が突っ込んでしまった。
ショートが婚約するって言ったら、領主はてっきり怒るかと思ったが、まさか自分が立候補するとはな……。
二人の反応を見ていると、新鮮な気持ちになる。
ゼルフと白玉ときたら――。
「うめぇ!」
『オイラ、これ好きだぞ!』
これだけしか言わない。
まぁ、一言美味しいと言ってくれるし、全身で表現してくれるからな。
「それもおかわりないぞ!」
「うっ……」
『クゥエ……』
口にクリームをつけて露骨に落ち込んでいた。
誰が見てもわかりやすいほどだからな。
本当に食いしん坊すぎて俺が呆れるほどだ。
「これで俺が提供したえーっと……フロランシェコースは終わりだな」
俺は最後に軽く頭を下げると、領主とショートは拍手をしていた。
いや、拍手をしていたのは二人だけではない。
ゼルフや白玉、さらには部屋の隅で控えていた使用人たちまでもが、まるで舞台の幕が下りた後のように温かな拍手を送ってくる。
「……おい、なんでお前らまで拍手してるんだよ」
「こういう食べ方もいいもんだな!」
『オイラも楽しかったぞ! 満腹にはならなかったけど……』
「俺も足りなかったな……」
あれだけゆっくり食べたのに、まだ食べられるとは本当に大きな胃袋だな。
だけど、褒められ慣れていない俺は、どうにも落ち着かない。
背中がムズムズして、この場を離れたいと思ったくらいだ。
でも、みんなの表情は心から楽しんでくれたようだ。
それを見ていると胸の奥がじんわり熱くなった。
「満足してくれたならよかった」
「よかったどころではないぞ!」
領主は椅子から立ち上がり、俺の方に近づいてきた。
「ぜひとも、ブレッドンとの領主会議の後に料理を振る舞ってもらいたい!」
「お父様、良い案ですわ! ずっと困ってましたもんね!」
あれ……? これは良くない方向に進みそうだぞ……。
俺はその場で手を放そうとしたが、捕まって解くことができない。
ゼルフと白玉はあまり考えてないのか、ニコニコとこっちを見ている。
「お前らどうにかしてくれよ!」
小声で話しかけるが首を傾げている。
「ハルト、よかったな!」
『これでオイラたちもまた食べられるのか……?』
「うおおおお、それはぜひ受けるべきだな」
あいつら絶対何か勘違いしているぞ。
領主会議って絶対に格式高いやつだし、こんな料理じゃダメなはずだ。
それに一番の問題って――。
「それってお互いの関係性を深めるものですか?」
「ギクッ!?」
一番気になっていたところは、本当にそれが領主会議なのかというところだ。
俺の料理で何か牽制する目的であれば参加するつもりはない。
事前にブレッドンと仲が悪いって聞いているからな。
ただ、今の反応で分かった。
「領主会議には手を貸すことはできません」
「なぜですか……?」
ショートは残念そうな顔をしていた。
いや、ゼルフと白玉もだ。
「試作品もないのか……」
『オイラも食べたかったぞ……』
あいつらは試作品を狙っていたんだな。
それなら会議に参加しなくても食べられるからね。
「俺は美味しい料理を食べてもらいたいだけです」
「それなら……」
「強力粉も使えないところでそれをしろとでも……?」
俺の言葉に領主とショートは静かになった。
これで強力粉を使っても良いと言われれば、少しは考えるだろう。
本来、今回作るパンには強力粉が必要だったからな。
きっと領主会議という名のお互いの牽制会議に薄力粉の良さでも伝えたかったのだろう。
「ただ、料理人には教えることができるので――」
「本当か!」
領主は再び俺の手を握ってきた。
ただ、俺もタダで受けるわけにはいかない。
「地図と交換ですけどね?」
俺はニヤリと微笑んだ。
きっちりと技術分はもらわないとな。
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