41.料理人、町を知る
お昼過ぎに昨日作ったクッキーと紅茶を持って、俺は領主の元へ向かう。
紅茶は思ったよりも文化が発展しており、お茶は美味しかった。
少し緊張しながらも扉をノックすると、中には頭を抱えている領主がいた。
その近くではショートも一緒に何かを考えているようだ。
「昨日作ったクッキーを持ってきました」
「クッキー!」
その言葉に一番に反応したのはショートだ。
ショートはソファーに座り、俺をキラキラした目で見つめてくる。
よほどクッキーを楽しみにしていたのだろう。
それは領主も思ったのか、少し不機嫌な顔をしていた。
「こんなものがうまいのか……?」
領主はクッキーを一枚取り、様々な方向から見て確かめる。
今までは硬いクッキーだったが、俺が作ったのはそれよりもホロッとしているからな。
違和感を覚えるのは仕方ない。
「お父様! それは食べてから言ってください!」
昨日、一枚だけ食べたショートは味を知っているからか、俺の肩を持ってくれているようだ。
「もう、私も早く食べたいんだから……」
ただ単に自分が早く食べたいからだった。
ショートも食いしん坊なのかもしれないな。
さらに領主は不機嫌になりながらも、クッキーを一枚口に運ぶ。
「んっ……なんだこれ……」
「ねぇ、お父様美味しいでしょ?」
領主の手がクッキーに伸びて、また一枚、二枚とかき込むようにクッキーを食べていく。
それを見たショートも、隣で負けじと口にクッキーを放り投げていく。
「あまり食べすぎると咽せますよ?」
「「ゴホッ! ゴホッ!」」
言った通り二人は咳き込んでいた。
すぐに紅茶を飲んで、息を大きく吐いた。
やはり親子だから似ているのだろう。
動きが全く同じだ。
「今まで怪しんで申し訳ない」
領主は軽く頭を下げた。
俺としては特に気にしてもいないから問題ない。
ただ、この際こっちのお願いを聞いてもらうのもいいかもしれない。
「それなら地図を用意してもらうことはできますか?」
「地図ですか?」
「はい。行き当たりばったりで移動しているので、中々目的地まで着かない可能性もあって……」
ナビゲーションで見えるようになったのは、自分が通った道と近くにある町だけだ。
もっと奥にも町があるはずなのに、今のナビ機能ではそれが表示されない。
地図があれば、どの方角に町があるのかわかれば目的地に近づくことでナビに表示されるだろう。
「すまない。地図はすごく高いから、用意するのに時間がかかる」
「そうなんですか……。ちなみにいくらぐらい何ですか?」
「100万ルピほどです」
「100万!? いやいや、こちらこそすみません! それは貰えないです」
さすがに迷惑料として、日本円で100万円の物をくれって……それこそ極道みたいだ。
ゼルフが言ったら……かつあげに見えるだろうな。
「では、夕食の準備ももうそろそろ終わりますので、楽しみにしておいてください」
少し残念に思いながらも、俺は部屋を後にした。
その間も領主とショートはクッキーを美味しそうに頬張っていた。
調理場に戻った俺は引き続き夕食の準備をしていく。
って言っても夕食はほぼできているんだよな。
あとはミルクレープに入れる果物を探すぐらいだ。
初めはクリームだけのミルクレープを作ろうとしたけど、それだと生クリームがどこまで準備できるかわからないからな。
「ゼルフ、町を見に行かないか?」
「おっ、いいぞ!」
『オイラもいく!』
いつものように俺たちは町の中を探検することにした。
「薄力粉が有名って言われているだけあるな……」
町の中では薄力粉を使った料理や薄力粉自体を売っているお店をよく見かける。
ただ、どこもうまく薄力粉を使えていないのか基本的にはパンみたいなものが多い。
それにパンケーキやスコーン、ビスケットと薄力粉でできるものは多いのに、見た目は必ずロールパンのような感じでケーキのスポンジに近い味がした。
「もっとサラサラした強力粉が欲しいよな」
俺がボソッと呟くと、薄力粉を売っている店主に睨まれた。
「兄ちゃん、それはあまり口に出さない方がいいぞ。フロランシェとブレッドンはあまり仲が良くないからな」
「そうなんですか?」
「ああ、お互いに自分の町の小麦が良いと思ってるからな」
領主の屋敷で世話になっているから、尚更強力粉に関してはあまり触れない方が良さそうだ。
うどんやお好み焼きとか料理の幅が広がるのにな……。
「ありがとうございます」
そう伝えて、俺は次の店に移動する。
「領地同士で仲が悪いことはよくあるのか?」
「各々派閥があったりするからな」
「いや、極道の話じゃないぞ?」
「貴族の話だぞ?」
ゼルフが話すと極道の話に聞こえてくる。
〇〇組と縄張りを争っているって映画とかでも言ってるぐらいだからな。
でも貴族にもそれに近い何かがあるのだろう。
その後も俺たちは町を見ながら、果物を買って帰ることにした。
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