40.料理人、料理指導をする
翌日、俺は朝からキッチンを借りて準備をしていた。
「本当に鶏の骨まで煮てもいいのか?」
「コンソメ作りには必要だぞ」
隣で料理人はメモをしながら、心配そうに眺めていた。
コンソメの基本は香味野菜として、たまねぎ、にんじん、セロリを入れると、独特の深みと香りになる。
本来は牛ひき肉と卵白を入れて、不純物を吸着させて、スープ自体を透明にする工程が必要だが、時間と技術がかかる。
そのため、今回は鶏ガラを入れることで深い味わいにさせながら、ほぼ煮込むだけの簡単コンソメを作ることにした。
これならここの料理人でも作れるだろう。
「冷蔵庫で保存はできるけど、肉の出汁だからなるべく早めに使い切るんだぞ?」
「えーっと、出汁ってなんだ?」
やっぱり出汁という考えがないのだろう。
海外では昆布や鰹節、椎茸などの旨味に気づきにくいと聞くが、肉や骨、野菜の旨味はしっかりと理解している。
そんな感覚だと思っていたが、そもそも出汁を知らないとはね……。
「んー、旨味の土台というのか味の基本だな。これに様々な味が重なっていくんだが、出汁にも種類があるからな」
コンソメやブイヨンが出汁と言われると、少し疑問を感じる。
ただ、洋風の出汁とも言われているから、広義の意味では出汁で問題ないだろう。
詳しい話をしても、きっと理解はできない気がする。
「そういえば、パンに強力粉は使わないのか?」
「ここでは薄力粉で作ることになってるぞ。まぁ、領主の中が悪いのも関係しているからな……」
「だからパンケーキみたいなパンだったのか」
パンを食べた時にどことなくパンケーキのように感じた。
どうやら隣の領主とは関係性があまり良くないため、強力粉を使うことがないらしい。
パンは基本的に強力粉をベースにすることが多いからな。
「んー、ならパンは水分少なめで、表面はしっかり焼いたほうがいいのか」
「パンも料理に合わせて作り替えるのか?」
「そりゃー、そうだろ。何を食べるかで主食も変わってくるし、パン一つでもメインの主菜やスープに合うものじゃないとおかしくなるからな」
「あっ……ああ」
ここまで考えに差があると、どうすれば良いのか俺にもわからない。
ただ、一つ言えるのはまずは簡単なものを教えるべきなんだろう。
まずは簡易コンソメスープが作れれば問題ない。
ちなみに今日作るメニューはクリームシチュー、ローストビーフ、サラダ、パンとほぼ昨日作ったものと同じメニューだ。
せっかくなら、どれだけ変わるか感じてもらいたいからな。
それに特別にデザートも用意するつもりだ。
その後もずっと料理をしていると、昼頃にはいつものあいつらがやってきた。
『ハルト、お腹空いた!』
「はやく何か食べさせてくれ!」
相変わらず食いしん坊組が食べ物を求めにきた。
昨日の夕食も途中で手を止めて、食べるのをやめていたからな。
「クレープでも食べるか?」
「それはなんだ?」
「あー、前に食べたトルティーヤに近いやつかな」
せっかく薄力粉があるならと、クレープ生地を大量に作っていた。
デザートで用意しようと思っていたのはミルクレープだ。
単純に俺がクレープを食べたくなっただけだが、せっかくなら見た目を派手にしたかった。
ただ、それだけの理由だ。
「ちょっと待ってろよ」
そう言って、俺は野菜を切って、肉を炒めて、調理台の上に並べた。
「これはこのまま食べちゃダメなのか?」
『オイラ、待てないぞ!』
お互いに左右に体を揺らしてソワソワしている食いしん坊にクレープ生地を渡す。
ついでに料理人もチラチラと見ていたので、一緒にお昼ご飯を食べることにした。
「まずはこの生地にソースを塗ります」
ソースは二種類。
一つ目は簡単に作れるオリーブオイルと塩胡椒のソースだ。
二つ目はキッチンカーから材料を持ってきているからできた照り焼きソース。
「そこに野菜と肉を載せて、あとは巻いて食べるだけだ」
ちゃんと三角形になるようにクレープを包んでいく。
具材を入れすぎると巻けないのが、クレープではよくある――。
「なんか食いにくいぞ……」
やはりゼルフは具材をてんこ盛りに入れていた。
『クゥエエエエ! やっぱりハルトのご飯が一番だ!』
俺はできたものを白玉に渡すと、美味しそうに食べている。
「こうやってみんなで楽しみながら食べる料理もあるから、覚えておくといいかもな。まぁ、貴族では使わないだろうけど……」
「……貴族では……こんなこと……やら……ないからな」
口いっぱいにクレープを頬張り、もぐもぐとしながらゼルフは話していた。
そのせいで口から野菜がポロポロと落ちてきている。
「お前は話すか食べるかどっちかにしろよ?」
「なら黙る」
そう言ってゼルフは黙々と静かに食べていた。
簡単にできるものなのに本当に大袈裟だ。
だけど、ゼルフと白玉を見ていると、料理人として嬉しい。
『ハルト、おかわり!』
「あー、はいはい。本当にお前らよく食べるよな」
すぐに白玉のクレープを巻いていく。
俺は一つで食べただけで十分だったのに、ゼルフと白玉はどれだけ食べれば気が済むのだろう。
「そういえば、口に合ったか?」
一口食べてから、ずっと静かな料理人に声をかける。
「なんか……本当に俺の料理とは別物だな……」
「まぁ、美味しいものをたくさん食べて、どうやったら美味しくなるのかを考えて勉強するべきだな」
きっと俺の料理は見たこともないし、食べたことのない味なんだろう。
初めて食べる料理って俺もワクワクしていたからな。
少しでも盗もうという気があれば、料理は自然と美味しくなる。
この料理人も少しは成長してくれれば良いと、俺は成長を願っている。
「『おかわり!』」
「おいおい、まだ食べるのかよ……」
食いしん坊組もどんどん成長して、将来が心配になってきた。
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