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キッチンカーと巡る異世界グルメ~社畜と無愛想貴族、今日も気ままに屋台旅~  作者: k-ing☆書籍発売中
第二章 料理人は異世界で先生に

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38.料理人、クッキーは貴族を魅了する

 キッチンカーを取りに行った俺たちは終始、町の人から変わった目で見られていた。

 だけど、それを利用して移動式の飲食店をするって伝えると、興味を示す人も多くいた。

 やはりキッチンカーはそれだけ存在感があるのだろう。


「ハルトが作ってるクッキーは美味しいの?」

「あー、どうかな。本来は小麦粉よりバター多めに作るから、屋敷で作っているやつよりはさらに美味しくできるぞ」

「さすがハルトだな! クッキー楽しみだぞ!」


 白玉は俺の隣でぴょんぴょん跳ねながら歩いていた。

 時折、頭が体に隠れるから、大きな白玉が歩いてるみたいだ。

 さっき食べたクッキーが砂みたいに不味かったのもあるが、新しいものが食べられると思い気分が良いのだろう。


「誰もいないな?」


 再びキッチンに戻ると、まだ誰もいなかった。


「お前たちしか帰ってきてないぞ」

「うぉ!?」


 気づいた時には料理人が後ろにいた。

 ゼルフはまだ怒られているのだろうか。

 冷やて固まったクッキー生地を取り出して、切りながら天板に並べていく。


「そういえば、冷やして何か意味があるのか?」

「あー、バターが溶けちゃうと形が崩れやすくなるのと焼いた後に硬くなりやすいんだ」


 簡単にいえば、バターが固まることで生地がだれないようになると、形も綺麗に整って、食感がよりサクッとしやすくなる。

 それに風味や食感が良くなるから、小麦粉の香りが前に出やすい。

 今回は特にチーズの副産物で作ったバターだから、柔らかくて溶けやすいかもしれないから、余計に冷やす必要性があった。

 まぁ、それに気づけたら一流の料理人だとは思うが、首を傾げていたから、ここでも難しいことは教えられないな。


「じゃあ、オープンに入れるぞ」


 オーブンの扉を開けると、ほんのり温かい空気がキッチンに満ちる。

 焼き始めると生地の表面がじわりと色づき始め、小麦粉とバターが香ばしい匂いを立ててきた。


「何か良い匂いがするわね」


 しばらく待っていると、匂いに釣られてショートがやってきた。

 やがて縁が薄く色づき、表面に小さな亀裂が入り始めた。


「私の知ってるクッキーとは違うわね」

「あれはほぼ小麦粉だったからね……」

「俺が作ったんだぞ……」

「あぁ……すまない」


 少し寂しそうな顔をする料理人に俺はすぐに謝った。

 さすがに直接不味いと同じ料理人に言われたら、落ち込んでしまうからな。



「そろそろ完成かな」


 生地の中で水分が蒸発し、香ばしい香りがさらに濃くなってきた。

 オーブンの扉を開けると、ふんわりと湯気とともに香りが一気に広がる。


「おっ、良い感じにできたな」


 焼き色のついたクッキーが天板の上に綺麗に並んでいた。


「ハルト、早く食べたいぞ!」

「私も!」

「俺も!」


 料理人も混ざって今すぐにでも、奪ってきそうな手が近づいてきた。

 俺は咄嗟に体の向きを変えて、天板を隠してすぐに止めさせる。


「クッキーは焼きたてより冷めてからの方が美味いんだぞ!」

「クゥエ!?」

「また待たせるんですか!」

「いい加減何回冷やせばいいんだ!」


 みんなが怒るのもわかる気がする。

 ただ、クッキーって冷やすことが多いからな。

 風味や食感が冷ました方がさらに美味しくなるからここは譲れない。

 特に今回は小麦粉多めだから、味の保証ができない。

 俺はひとまず三枚だけ天板から外して、クッキーを渡す。


「この味を覚えておくといい」


 そう伝えると、同時にクッキー口に入れた。

 俺も一枚だけ食べてみるが、やはり小麦粉が多い影響か、どこかサクッとした感触よりもホロッとした感じが強い。


「クゥエエエエエ!」

「えっ……これがクッキー……」

「うまいな! おい!」


 だけど、他の人たちは反応が違った。

 キラキラした瞳でもう一枚ねだってくるが、ここは我慢してもらうしかない。

 俺は冷めたクッキーを食べてほしいからな。


「そういえば、ゼルフはどこにいるんだ?」

「先生? 先生ならお父様と話は終わって部屋にいると思うよ」


 クッキーの匂いがしたら、一番に駆けつけて来ると思ったゼルフがここには来なかった。

 よほど怒られて落ち込んでいるのだろう。

 顔は無愛想でも心は弱いってやつだな。


「ちょっとゼルフのところに行ってくる」


 俺はそのままキッチンを後にして、ゼルフの様子を見にいくことにした。


「あっ、お前らクッキーを食べるなよ! 一枚でも減っていたら、もう作らないからな!」


 その言葉にビクッとしていた。

 俺がいない間につまみ食いでもする予定だったのだろう。

 そっぽ向いて、誰も俺の顔を見ようとしない。


「白玉は……食べたら北京ダックになるぞ!」


 俺はさらにもう一度釘を刺す。


「クゥエ!? オイラだけ……」

「ねぇ、北京ダックって何かしら?」

「ひょっとしたら美味しい料理かもしれないな」


 チラッと見たら、ショートと料理人が白玉に詰め寄っていた。


「ハルトオオオオオオオオ!」


 しばらく白玉の叫び声が鳴り響いていた。

 ひょっとしたら、戻ってきた時には白玉はこの世にいないのかもな?

お読み頂き、ありがとうございます。

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