31.料理人、レシピを伝授する
「商業ギルドのキッチンって思ったよりも大きいんですね」
「ギルドではレシピの登録は職員がメモするんです」
「ってことは俺は作るだけでいいんですか?」
「はい」
どうやらその場で作り方を伝えるだけで良いようだ。
離れたところにゼルフが待機しており、中に人が入ってこないようにしていた。
レシピが勝手に流出しないようにするためらしい。
さすがにゼルフに睨まれたら、命をかけてでも中に入ることはないだろう。
ただ、あまりにも遠すぎると説明は聞こえるのだろうか。
レシピだけでは伝わりにくいところもあるからな。
「まずは玉ねぎ、にんにく、しょうがをみじん切りにします」
「みじん切りとは……?」
「あー、えーっと……」
まさかギルドマスターがみじん切りも知らないとは思わなかった。
料理を知らない人でも、さすがにそれぐらいは知っているはずだが……。
「すみません」
どうやら料理の技術そのものがこの世界では遅れているのかもしれない。
「みじん切りは細かく切り刻むことですね」
俺はお手本に玉ねぎをみじん切りにしていく。
玉ねぎって結構みじん切りにする機会は多い。
俺は何度やってきたことか……。
「おぉー!」
ギルドマスターは驚いた表情をしていた。
だんだんと心配になってきた。
このままレシピを書いたとしても、誰も作れないような気がする。
「ギルドマスター、誰かレシピを買う予定の人を数人連れてきてもらっていいですか?」
「わっ……わかりました」
しばらくすると、男数人がキッチンの中に入ってきた。
あれだけ外で見ていても、レシピを買う人は少ないようだ。
「あっ……錬金術店で……」
「ははは、付けるようなマネをしてすみません」
その中には錬金術店の外で俺を見張っていた人も混ざっている。
この世界では似たような料理のレシピ公開はあっても、全く新しい料理は公開されない。
繁盛する料理を教える人は普通いないからだろう。
だから、男は俺をストーカーのように付き纏って、作り方を盗もうとしていたらしい。
食べて味を盗み学ぼうとする人は、世の中にはいくらでもいる。
ただ、まさか異世界に来てまでストーカーされるとは思いもしなかった。
「しっかり学んでくださいね」
「はい!」
俺は続けてスパイスカレー作りを伝えていく。
「みじん切りした玉ねぎをフライパンで炒めます。あめ色にならなくても、うっすら色が変わるだけでいいので、このタイミングでにんにくとしょうがも入れます」
にんにくとしょうがの香りが一気にキッチンに広がる。
チラッとゼルフを見ると、こっちをジーッと見ていた。
自分の仕事を忘れたのだろうか。
「入ったら殺すぞ……?」
いや、ちゃんと周囲は見えているらしい。
匂いに釣られて入ってこようとした人を止めていた。
我が家の護衛は思っていたよりも有用のようだ。
「にんにくとしょうがの匂いが立ったら、クミン、コリアンダー、ターメリックを同じ分量を入れてほとんど完成だ」
「「「はぁん⁉︎」」」
ギルドマスターを含むこの場にいる人たち全員が驚いていた。
まさかスパイスカレーがこんなに簡単だとは誰も思っていないだろう。
本当はもう少しちゃんとしたものを教えるつもりだったが、ギルドマスターの反応からして作れないと判断した。
だから、スパイスカレーの基礎を教えたのだ。
一般家庭でも簡単に作れるレシピをね。
「あとはこの中にトマトを入れて、酸味が飛ぶまでペースト状にして、肉などの他の具材と水を入れて煮れば完成です」
「思ったよりも簡単なんですね……」
「ええ、大事なのはスパイスの分量を同じにすることです」
3つのスパイスを同じ分量だけ入れるのが、スパイスカレーを作るポイントになる。
その辺が曖昧になると、全く美味しくないからね。
「あとはオリジナルで具材を変えたり、追加でスパイスを入れれば、そのお店専用の味ができます」
ただ単にスパイスを適当に入れたり、量を増やせばいいわけでもない。
そこが思ったよりもスパイスカレーの難しさだ。
だが、料理人ならそれぐらいはやってもらわないと困る。
きっとお金を払ってまで見にきた人たちなら、美味しいスパイスカレーができるだろう。
「それでレシピっていくらで販売されるんですか?」
「スパイスカレーのレシピはこの世界を変えるかもしれないので……。金貨1枚で販売するつもりです」
「金貨1枚……10万ルピですか⁉︎」
俺は驚いて言葉にならなかった。
まさか日本では当たり前にあったスパイスカレーのレシピがこんなに高くなるなんて……。
「少なかったですか?」
「いえいえ、多いぐらいです!」
「それならよかったです。1割ぐらいはこちらの手数料で引かれますが、ギルドカードでどこのギルドからも引き下ろせますので、受付に問い合わせてください」
まさかあのカードが身分証明だけではなく、銀行機能まで付いているとは思わなかった。
さすがに貰いすぎのような気もするが、次の旅費にすれば良いだろう。
我が家には食いしん坊がいるからね。
「しばらくは滞在しているので、気になることがあったら聞きに来てくださいね」
「まっ……まさか、特別指導もされるんですか?」
「えっ、別に聞きたいところがあれば、答えるだけですよ?」
キッチンにいる男とギルドマスターはその場で手を合わせた。
「ハルト様……いや、神様に感謝を!」
「「「ははー!」」」
あまりの居心地の悪さに俺は後退りする。
どこか白玉の気持ちがわかったような気がした。
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