29.料理人、俺は天然じゃないぞ?
「それって俺たちにはどうすることもできないですよね?」
俺の言葉にギルドマスターは苦い顔をした。
実際に1割の飲食店はどうにかできている。
それはスパイスを使っていないお店なのか、もしくは本当に美味しいお店なのかもしれない。
誰もが努力して改良して売れるお店を作っているはずだ。
それを俺に言うのは勘違いも甚だしい。
「俺もそこまで暇じゃないので失礼します」
疲れている俺が今話しても何も解決しない。
そもそも考えるのはギルドマスターだからな。
俺はその場で運転席に戻ると再び目を閉じる。
「ギルドマスターは帰ったか?」
「ああ、ハルトは間違ってないから大丈夫」
そう言ってゼルフも助手席に寝転んだ。
「なぁ、ハルト」
「なんだ?」
「次の町に行くか?」
ゼルフのその言葉は俺も正直考えていた。
俺がいて飲食店が潰れるなら、キッチンカーで移動ができる利点を使えばいい。
ただ、そうなると――。
「スパイスカレーを気に入ってくれたお客さんが可哀想だからな……」
毎日買いに来てくれるお客さんは存在している。
その人たちのことを考えると、じゃあすぐに移動するとも言えない。
「ハルトはすぐに無理するからな。何かあったら俺が守ってるやるぞ!」
「それ……男の俺に言うことか?」
真面目な顔で励まそうとしているゼルフについつい笑ってしまう。
ただ、その気持ちだけでも俺の肩は軽くなった気がした。
しばらく休むと、俺とゼルフは買い出しのために町の中に入っていく。
ちなみに白玉はキッチンカーの見守りをすると言っていた。
番犬なるぬ番鳥……いや、番家鴨だな。
「よっ、兄ちゃん今日も繁盛していたか!」
「相変わらず助かってますよ」
錬金術店に行くと店主がいつものように声をかけてくれた。
あれから馴染みのスパイス店として、ここから買うようにしている。
「兄ちゃんたち、町に来る時は少し警戒した方がいいぞ?」
「何かあったんですか?」
「いや、スパイスを買いにくるやつらが、兄ちゃんたちの文句を言っていたからな」
ここでもギルドマスターが言っていたことと同じことを話された。
本格的に町を移動するのも、視野に入れないといけない気がする。
「まぁ、兄ちゃんたちのせいではないからな!」
店主も時折スパイスカレーを買いに来てくれていたが、スパイスを使っている他の店とは全く違うと言っていた。
自分の店を持っているからこそ、俺の気持ちもわかってくれてる。
「別に弟子入りしたいと言われたら教えるんですけどね」
「「えっ……!?」」
なぜか俺以外は驚いた顔をしていた。
別にスパイスカレーなんてレシピが普通にあったぐらいだ。
そこまで隠すことでもない。
「おい、ハルト……本当に教えるつもりなのか?」
「やる気があるやつらなら、いくらでも教えるぞ」
やる気がないやつに教えても、不味いカレーが出回るだけだろうし、迷惑を受けるのはお客さんになるからな。
「そんな簡単にレシピを教えるのか……」
「兄ちゃん、悪いことは言わない。あのスパイスカレーは世界を変えるレシピになる。商業ギルドに高く売りつけるんだ」
「レシピって売れるんですか……?」
俺の言葉にゼルフと店主は頭を抱えてため息をついていた。
異世界から来たやつにレシピが売れるとは誰も思わないからな。
レシピ集でも1500円程度で買えるし、ネットで調べたらいくらでも出てくるのが常識だ。
「ハルト、さっきギルドマスターが来たのはレシピの交渉だと思うぞ?」
「あっ……そうなのか?」
さっきはかなり追い出した形になったからな。
ちなみに錬金術の分野でもレシピとかは売られており、歴史を変えるものはかなり高く買い取られるらしい。
「んー、でも俺の料理ってそこまですごいものでも――」
「はぁー、うちの店主はどこかおかしいだろ?」
「これであのスパイスカレーができることに驚きだ」
どこか俺を馬鹿にしているが、生まれたところが違えば考えも違うからな。
「もしレシピを売るなら早めの方がいいぞ? 一部の人たちが何度もこの店に通って、俺に材料を聞き出そうとしているからな」
店主が指をさすと、窓の外には数人の男たちが覗いていた。
俺と目が合うと姿を隠したが、きっとあの人たちは真面目な料理人なんだろう。
「気づかなかったな……」
「ほら、危ないやつだろ? 俺が毎回護衛で付いて来てるのも知らないんだぜ?」
「えっ……荷物持ちじゃなかったのか!?」
最近ゼルフが付いてくるようになったのは、単純に買うものが多いから荷物持ちで来てくれているのかと思った。
さっき俺を守るって言ったのも、白玉がキッチンカーを見守りしてるのも、ちゃんと理由があったのか。
「なんか先が思いやられるな……」
「兄ちゃん頑張れよ!」
ゼルフは錬金術店の店主に肩を叩かれ、同情されていた。
そんなに俺って物知らずじゃないし、天然でもないぞ……?
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