表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キッチンカーと巡る異世界グルメ~社畜と無愛想貴族、今日も気ままに屋台旅~  作者: k-ing☆書籍発売中
第一 キッチンカーで異世界へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/41

26.料理人、錬金術になる

「あら、そんなに買って何をするんだね?」


 宿屋に戻り、キッチンに向かうと女将に声をかけられた。


「今からカレー作ろうかと思いまして」

「カレー……? それは何かのプレイかね?」

「プッ……レイ?」


 俺は首を傾げる。

 調理が何かと聞かれても俺にも流石にわからない。

 生きるのに必要なことと言ったら間違いではない。

 ただ、外食ばかりしている人にとったら、全く関係のないことだからな。


「あぁ、さすがにそこまで聞くのはいけないわね」


 そう言って、女将は親指を立てて去っていった。

 頑張って美味しいカレーを作れってことだろうか。

 とりあえず俺も親指を立てて笑っておいた。


『なんかハルトって変わってるな』

「あいつ、きっと何もわかってないぞ」


 白玉とゼルフがコソコソと話しているが、さすがに調理に関しては俺の方が知っている。

 ただ、そんな当たり前のことで言い返しても疲れるだけだ。

 だって、スパイスカレーは結構手間暇がかかるからな。


 俺は早速スパイスカレーを作ることにした。

 まずはフライパンに油を垂らしていく。

 すぐに熱が走り、静かな部屋に小さな弾ける音が響いた。

 そこへクミンシードをひとつまみ。

 油の中で小さな粒がぷくりと膨らみ、香ばしい香りが立ち上る。

 鼻の奥をくすぐるようなその匂いに、自然と息が深くなる。

 クミンシードが油の中で弾けるたび、香りが油に染み込んでいく。


「やっぱりスパイスカレーと言ったらこれだな」


 この香りがあるだけで、あとで加えるスパイスたちが不思議とまとまる。

 それにクミンパウダーだけだと、香り成分が空気に触れて揮発しやすくなってしまうからね。

 この作業があるだけで、風味と味が奥深くなるから重要な役割になる。


「ハルトは錬金術でもやるつもりか?」

『でも良い匂いがするぞ?』


 ゼルフと白玉は少し離れたところで、興味深そうに俺のスパイスカレー作りを見ていた。


 続いて刻んだ玉ねぎを投入する。

 ジュッと音を立て、湯気とともに甘い香りが広がていく。

 キッチンにあった木べらでゆっくりとかき混ぜながら、飴色になるまで炒める。

 そこにすりおろしたにんにくとしょうがを加えれば、刺激的な香りが一気に立ち昇った。


 火を弱め、今度は買ったばかりのスパイスたちを入れていく。

 黄金色のターメリック、温かみのある香りのコリアンダー、そして炒めていたクミンの粉末。

 さらにチリパウダーにカルダモン、クローブ、シナモン、フェヌグリーク――。

 混ぜ合わせるたび、空気の層が変わるように香りが重なっていく。

 スパイスの粉が油を吸い込み、濃い琥珀色のペーストへと変わった。


 そこに刻んだトマトを入れ、じっくりと水分を飛ばしていくと、赤と黄色が混ざり合い、深いオレンジ色になる。

 この瞬間、カレーの香りはほぼ完成したと言っても過言ではない。


「本当に錬金術みたいだな……」

『オイラも初めて錬金術を見たぞ!』

「私もよ」

「『うわっ!?』」


 声がする方をチラッと見ると、女将も一緒になってスパイスカレー作りを見守っていた。

 やっぱり美味しそうな匂いに釣られたのかな。


 肉を入れて馴染ませてから水を注ぐ。

 ぐつぐつと煮立つ鍋の中で、スパイスの粒が踊り、香ばしい香りがキッチンいっぱいに広がる。

 ようやくスパイスカレーの完成だ。


「スパイスカレーって言ったら……ナンだな!」

「「『ナンダナ?』」」


 ターメリックライスがあればよかったが、ここには米や炊飯器はない。

 だから、簡単にナンを作ることにした。

 材料はシンプルで、小麦粉に塩と水と油を入れて混ぜ合わせるだけだ。


「ナンダナはパンみたいだね」

「ナンダナはパンダナ?」

『パンダナはナンダナ?』


 三人の掛け合いについ俺も笑ってしまう。

 できた生地を軽く伸ばして、フライパンで両面を焼く。


「これが〝ナン〟!」


 出来上がったナンを見せると、やっと正式名称を理解したようだ。

 このままだとずっとナンのことをナンダナと覚えられそうだった。


「よし、そろそろ完成するから机を片付けて――」

「ふふん、もう準備はしてあるぞ!」

『オイラも手伝ったぞ!』


 スパイスカレー作りに集中している間に、ゼルフと白玉は食べる場所を準備していたらしい。

 さすが我が家の食いしん坊たちだ。


「お金を払うから私にも少しだけもらえないかしら?」


 宿屋の女将が申し訳なさそうに聞いてきた。

 別にたくさん作ったから俺は問題ない。

 ただ、隣からの圧がものすごく強いんだよな。


「ゼルフ、白玉。明日はお米と一緒に食べるからね」

「なっ!? こいつはお米と食べても美味いのか!」

『ぬぬぬ……オイラは我慢するぞ……』


 おにぎりをよく食べるゼルフと白玉は、とにかくお米が大好きだ。

 お米と合うと言われたら、眉をひそめながらも女将が食べることを許可してくれた。

 作ったのは俺なんだけどな……。

 ただ、食の恨みは怖いから、許可をとっておいて損はない。


「ほら、早く運べよー!」


 俺は大きな皿にスパイスカレーとナンを載せて、次々と渡していく。

 その中にはウキウキして運ぶ女将もいた。

 ひょっとしてこの世界の人って食欲が強い人ばかりなんだろうか。

 そんなことを思いながら、俺たちはできたばかりのスパイスカレーを食べることにした。

お読み頂き、ありがとうございます。

この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。

よろしくお願いします(*´꒳`*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ