表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キッチンカーと巡る異世界グルメ~社畜と無愛想貴族、今日も気ままに屋台旅~  作者: k-ing☆書籍発売中
第一 キッチンカーで異世界へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/54

20.料理人、異世界の料理を食べる

「んー、料理屋でも色々あるんだな」


 匂いに誘われるがまま歩いていくと、フォークとナイフが描かれた看板がたくさんある通りに着いた。


『オイラ、ハルトのご飯がいい』

「俺もそう思う」


 どの店も香辛料をよく使っているのか、鼻に突き刺さる匂いがどこも強い印象を受ける。

 いつも食欲旺盛なゼルフと白玉の足取りは遅く、立ち止まっていた。


「まぁ、試しに入ってみようぜ!」


 俺はゼルフと白玉を押して、ともに近くの店に入った。

 店内は飲食店というよりは、居住区を飲食店に改装した古民家に近いイメージだ。


「いらっしゃい! うちはチキンの店だけど……大丈夫かい?」

「はい!」


 店の女性は白玉をチラチラと見ていた。

 コールダックを連れているのに、チキンを食べるのに抵抗がないか確認していたのだろう。

 ただ、チキンならゼルフや白玉も好きだからちょうど良い。


「どんなチキンが来るのかな?」

「期待しない方がいい」

『オイラもそう思うぞ!』


 しばらく待っていると、鶏を丸ごとオーブンで焼いたようなものが出てきた。

 表面は赤とオレンジの粉末スパイスで真っ赤に染まっている。

 皮の表面には油と香辛料の粉が混ざり、ざらついているように感じた。


「スパイスをたくさん使っているんですか?」

「ええ、基本的にはスパイスをたくさん使っているほど美味しいと言われているからね」


 そう言って、店の女性は戻って行く。

 どうやらスパイスを使えば使うほど良いという認識のようだ。


「じゃあ、味見してみるぞ」


 俺はナイフでチキンを切ると、そのまま口の中に入れる。

 口に入れた瞬間、スパイスの香りが口いっぱいに広がっていく。

 強烈でカイエンペッパーとガーリックパウダー、そしてクミンの刺激的な匂いが鼻を突く。

 甘い香りや肉の旨味はほとんど感じられず、むせ返るような刺激だけが残る。

 肉自体は乾き気味で、旨味やジューシーさはほとんどなく、香辛料の粉っぽさが口に残った。


「どうだ?」

「んー、毒はないけど……」


 美味しいかどうかと聞かれたら、あまり美味しいものではないだろう。  

 皮はわずかにパリッとしているものの、噛むたびに刺激的な香りと辛さだけが強調され、食べ進める気力をそぎ落とす。

 見た目は派手で食欲をそそるのに、味は香りの強さに圧倒されて、素材の存在感が感じられない。

 バッファローチキンやタンドリーチキンに似ているが、スパイスが渋滞しているチキンだ。


「やっぱりハルトのご飯の方が美味いな」

『オイラもハルトのやつが好き!』


 大きな声で話すゼルフと白玉に俺は背筋がゾッとした。

 視線を感じて振り向くと、ジロリと睨みつけている女性がいた。

 俺は急いで頭を下げる。

 このままここにいても、嫌な思いをさせてしまうだろう。

 同じ料理人として、目の前の客に何かと比べられるのって辛辣だからな。


「そろそろ帰るか」


 料理を残すことになり、後ろめたさを感じながら、なんとか頑張って半分だけ食べたところで俺たちは帰ることにした。


「どこか調理場が借りられるところはあったりするのか?」

「いや、そもそも借りて何かを作ろうってするやつはいないぞ」


 キッチン付きのレンタルルームとかはないようだ。

 キッチンカーがダメだった場合、移住先も検討しないといけない。

 しばらくはゼルフと白玉の文句を聞くことになりそうだ。


 俺たちは宿屋に戻ると、すぐに寝ることにした。

 明日のお昼頃にはキッチンカーの修復が終わるため、そこで俺の運命が変わる。


「ゼルフ、起きてるか?」

「なんだ?」


 俺はゼルフに声をかける。

 もちろん俺の隣で寝ているからな。


「キッチンカーで旅ができなくても、まだ旅は続けてくれるか?」

「ああ、そんなことか。俺にとっても都合がいいからな」


 その言葉を聞いて俺はホッとした。

 せっかくなら色んな町を見て、好きなところに住む方が良いだろう。

 どうやって帰れるかわからないし、せっかくなら自分の料理とあった場所に住みたいからな。


「そういえば、ゼルフはなんで旅がしたいんだ?」

「……」


 やたらとゼルフは一箇所に止まらず、どこかに行きたそうな気がしていた。

 だから、聞いてみたが返事がない。

 寝てしまったのかと思って寝返りを打つと、ゼルフはじっとこちらを見ていた。


「うぉ!?」

「くくく……」


 まさか起きているとは思わなかった。

 驚く俺にゼルフはクスクスと笑っている。


「もっと驚くことを教えてやる」

「なんだ?」

「……俺は貴族だ」


 一瞬、意味が理解できなかった。

 貴族って、あの〝貴族〟だろうか?

 日本で言えば天皇家くらいのものだし、ピンとこない。

 それにこの見た目で貴族って……。


「ふーん、そうなんだ」

「それだけか……?」


 絶対、嘘としか思えない。

 貴族というより極道って言われた方が信じられそうだしな。

 むしろ話すコールダックの方が驚きだ。


『チキンにゃんばん……うみゃうみゃ』


 今も俺の隣で寝言を呟いている。

 チキン南蛮を食べている夢でも見ているのだろうか。


「俺は食いしん坊のゼルフしか知らないからな。とりあえず、早く寝ろよ」

「あぁ……そうだな」


 月明かりが差し込む中、ゼルフの顔がふっと笑った気がした。

 けれど、その笑みはどこか優しさと、不気味さが入り混じったように見える。

 やっぱり貴族より極道の方が似合っている。

 俺は背を向けるようにして体の向きを変えた。


「おやすみ」

「あぁ……」


 ゼルフに返された声は普段と変わらない。

 ただ、どこか嬉しそうに聞こえて、俺は胸の奥が少しだけ温かくなった。

お読み頂き、ありがとうございます。

この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。

よろしくお願いします(*´꒳`*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ