表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された下級騎士、断罪された悪役令嬢に拾われて成り上がり ~共に復讐しながら最強夫婦になりました~  作者: 妙原奇天


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/56

第8話 聖女との出会い

 辺境の村が盗賊団を退け、交易を得てからさらに数日。

 村の空気はかつてないほど活気に満ちていた。

 だが、その平穏を破るように、一人の来訪者が現れる。


 ――それは夕暮れ時だった。

 森を抜ける小道に、よろめくような影が現れた。

 白いローブは泥にまみれ、裾は裂けている。

 倒れ込むように村の入口にたどり着いたその女性を、子供たちが悲鳴を上げて呼びに走った。


「アレン様! クラリス様! 誰かが倒れてます!」


 駆けつけたアレンとクラリスが見たのは、血に濡れた聖職者の姿だった。

 金糸の刺繍が施された聖衣は、確かに“神殿の者”を示している。


「……これは……」

 クラリスが目を見開いた。

「まさか……王都の“大聖女”エリナ・セラフィード?」


 その名は有名だった。

 神殿において奇跡を起こすと称えられた、最年少の聖女。

 だが同時に、派閥争いに巻き込まれて失脚し、最近「失踪した」と噂されていた人物でもあった。


「……水を……ください……」

 かすれた声で聖女が求める。

 アレンはすぐに水筒を差し出した。

 彼女はごくごくと水を飲み、息をつき、そして弱々しく笑った。


「助けていただき……ありがとうございます。私は……もうどこへ行けばいいのかも分からず……」


 クラリスは静かに問いかける。

「なぜ、こんな辺境に?」


 エリナの瞳に影が宿る。

「王都の神殿は、清き場ではありませんでした。権力を求める者たちが互いに陥れ合い……私は“異端の聖女”として追放されたのです」


 その言葉に、村人たちがざわめく。

 アレンは拳を握りしめた。

 ――まただ。自分と同じ、クラリスと同じ。

 「追放された者」。


「あなたも、捨てられたのね」

 クラリスが言う。

「なら、ここに残ればいいわ。私たちは追放者の集まり。あなたが聖女であろうと、異端であろうと関係ない」


 エリナの目が見開かれる。

 涙があふれ、彼女は深々と頭を下げた。

「……私を、ここに置いてください。もう一度、人を救う力を……」


 その夜。

 村の広場に集まった人々の前で、エリナは両手を掲げた。

 淡い光がほとばしり、負傷した者の体を癒やす。

 傷がふさがり、苦しんでいた老人がすっと立ち上がった。


「奇跡だ……!」

「本物の聖女様だ!」


 村人たちが歓声を上げる。

 ミーナも感嘆の息を漏らした。

「これほどの癒やしの力……王都でも限られた者しか……」


 クラリスは誇らしげに微笑む。

「いいわね。これで私たちは剣も、薬も、鍛冶も、そして奇跡すら手に入れた」


 アレンは皆を見渡し、力強く言った。

「俺たちは、捨てられた者の集まりだ。だが見ろ――誰もがここで力を発揮している。これからもそうだ。王都に見捨てられたなら、俺たちが王都を超える」


 その言葉に、村人たちの目が輝く。

 拍手と歓声が広場を揺らした。


 その後。

 焚き火の傍で、アレンとクラリス、そしてエリナは肩を並べて座っていた。

 エリナは火を見つめながら、ぽつりと呟く。


「私……“悪役”と呼ばれたあなたの隣に立つのが、こんなに心強いと思いませんでした」

「皮肉ね。私たちは皆、都合よく“悪”に仕立て上げられた者同士」

 クラリスはワインを傾けて微笑む。


 アレンは二人を見て、胸の奥が熱くなるのを感じた。

 追放された者たちが、こうして集まり、力を合わせている。

 その光景は、かつて夢見ていた“仲間”の姿だった。


「……最強の夫婦、最強の仲間。きっと俺たちは、世界に逆襲できる」


 焚き火の火花が夜空に舞い上がる。

 辺境の村は、ただの村ではなくなった。

 “聖女の加護”を得たことで、この地は確かな勢力へと変貌していく――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ