表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/56

第6話 初めての勝利

 辺境の村に漂う空気は、確かに変わり始めていた。

 追放された騎士アレンと断罪された令嬢クラリスが手を取り、鍛冶師ギルバート、薬師ミーナが加わったことで、村は徐々に「拠点」としての形を帯び始めた。


 だが――それを黙って見逃す者はいない。


 狼煙が上がったのは、ある夕暮れだった。

 森の向こうに炎が立ち上り、偵察に出ていた少年が慌てて駆け込んできた。


「た、大変だ! 盗賊団の本隊がこっちに向かってる! 数は……三十人以上!」


 広場がざわめきに包まれる。

 村人たちの顔から再び血の気が引いた。


「前に追い払ったのはただの下っ端……本命が来たのね」

 クラリスは冷ややかに呟く。


 アレンは剣を腰に差し直し、皆の前に立った。

「いいか、怯えるな。ここで逃げれば、この村は本当に滅ぶ。だが……俺たちには仲間がいる。剣も薬も、そして魔導も。恐れる理由はない」


 村人たちの表情に、不安と期待が入り混じる。

 アレンは続けた。


「ここで勝つ。今日を“最初の勝利の日”にする!」


 夜。

 松明の赤い光が村を照らす。

 三十名の盗賊が押し寄せ、嘲笑と怒号が混じる。


「ははっ! こんな辺境の村に、まだ命があるとはな! 全部奪ってやる!」

「嬢ちゃんも鍛冶屋も薬師も、全部俺たちのもんだ!」


 村人たちは柵の後ろで武器を構える。震える手の中に握られているのは、ギルバートが打った新しい剣。

 その光に、わずかな希望が宿る。


「行け、アレン!」

 ギルバートの声に背を押され、アレンは前へ。


 盗賊の先頭が斧を振り下ろす。

 アレンは剣を振り上げ――


「ふっ!」


 一閃。

 鋼のきらめきが夜空を裂き、斧ごと盗賊を弾き飛ばした。

 その瞬間、彼の剣が再び光を帯びる。


「な、なんだあの光……!?」

「ただの騎士じゃねぇぞ!」


 盗賊たちが動揺する中、背後からクラリスの声が響いた。


「《封鎖の檻》!」


 地面が割れ、闇色の鎖が伸び、十人近い盗賊の足を絡め取った。

 彼らは叫び声を上げて倒れ込み、動きを封じられる。


「今よ!」

「任せろ!」


 アレンがそこへ飛び込み、次々と斬り伏せていく。

 村人たちも勇気を得て、柵の隙間から槍を突き出した。


 だが盗賊団の本隊は手強い。

 矢が飛び、柵を越えて火炎瓶が投げ込まれる。炎が燃え広がり、悲鳴が上がる。


「ミーナ!」

「はい!」


 薬師ミーナが素早く薬草袋を開き、治癒薬を配って負傷者を救う。

 その必死な姿に、村人たちも奮い立つ。


「俺たちも戦うんだ! この村は俺たちの家だ!」


 混乱する戦場の中で、アレンの剣はさらに研ぎ澄まされていく。

 ――抑えていた力は、もう必要ない。

 剣閃が走るたびに、盗賊たちは倒れていく。


「おのれぇぇ! 下級騎士のくせに!」

 頭目らしき大男が大剣を振りかざし、アレンへ迫る。


「俺はもう“下級”じゃない」

 アレンは一歩踏み込み、渾身の力を込めて剣を振るった。


 閃光。

 大剣は真っ二つに折れ、大男は地に崩れ落ちた。


「ひ、ひいいっ! 退けぇ!」

「こいつらは化け物だ!」


 頭目を失った盗賊たちは次々と逃げ出し、森の奥へと消えていった。


 戦いの後。

 広場に残ったのは、勝利の余韻だった。

 負傷者は出たものの、誰一人命を落とさなかった。


 村人たちが歓声を上げる。

「勝った! 俺たちは勝ったぞ!」

「本当に、盗賊団を追い払ったんだ!」


 アレンは剣を収め、深く息をついた。

 クラリスが隣に立ち、静かに笑う。


「これが……“初めての勝利”。そうでしょう?」

「ああ。俺たちが本当に“始まった”証だ」


 村人たちの喜びの声に包まれながら、二人は確信する。

 この勝利は小さな一歩にすぎない。

 だが、それはやがて――王都を揺るがす大逆襲の始まりとなるのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ