第52話 帝王の本気
闇の解放
帝王シグマールが掌を握りしめると、平原全体が震えた。
空が割れ、黒い裂け目が走り、星が吸い込まれるように消えていく。
大地は鳴動し、兵も騎士も膝をつかざるを得なかった。
「……これが、帝王の本気……！」クラリスが息を呑む。
アレンは歯を食いしばり、剣を構える。
「負けねえ。こんな圧に屈してたまるか！」
シグマールの声は低く、戦場すべてに響いた。
「未来を語るか。ならばその未来を、闇で包んで試してみせよう」
戦場の崩壊
黒い杭が林立し、大地がねじれた。
兵の列は引き裂かれ、仲間同士が隔てられる。
空からは闇の矢が雨のように降り注ぎ、盾を貫いて大地を穿つ。
「下がれ！ 後列は避難を！」
ギルバートが槌を振るって闇の杭を砕く。
「祈りを繋げ！」エリナの声が震えながらも響き、光の障壁が闇を一瞬だけ押し返す。
ミーナは必死に兵の傷を繋ぎ止めた。
「立って！ まだ終わってない！」
仲間たちは必死に抗うが、帝王の力はまるで大地そのもの。
押し返すというより、押し潰されるのを必死に遅らせているだけだった。
剣と炎の誓い
アレンとクラリスは互いの背を預けた。
「アレン、私の魔力は限界。でも――」
「限界なんて関係ねえ。お前と一緒なら、何度だって燃やせる」
紅の炎が杖から立ち昇り、銀の剣を包む。
剣と炎が一つに共鳴し、夜の闇を切り裂く光となった。
「俺たちは英雄なんかじゃない！」
アレンが叫ぶ。
「ただ――仲間を、民を、愛する者を守りたいだけだ！」
クラリスの声が重なる。
「その願いこそが未来を燃やすの！ 帝王――あなたの闇には渡さない！」
帝王の動揺
光と炎が闇を裂き、一瞬だけ平原に風が戻った。
シグマールの瞳が細められる。
「……愛、か」
彼の胸奥に、わずかに揺らぎが走った。
しかしすぐに、闇がその揺らぎを飲み込む。
「ならば証明してみろ。その愛とやらが、強者の理を越えるのかを！」
帝王が両腕を広げ、天地が裏返るような圧が走った。
戦場そのものが闇と光の境界へと変わっていく。
英雄の叫び
崩れる大地の上で、アレンは剣を掲げた。
「俺は――諦めない！ 未来を掴むまで！」
クラリスも杖を振り上げる。
「私も！ 二人で、最強の夫婦として！」
その声が兵たちの胸に届いた。
「俺もだ！」
「諦めねえ！」
「最強夫婦に続け！」
戦場全体が再び燃え上がる。
炎と剣と祈りと声が重なり、帝王の闇と真正面からぶつかった。
