第50話 英雄の戦場
剣と槍の激突
突破口の外――平原の只中で、銀と黒が火花を散らした。
アレンの剣が夜を裂き、ラクリマの槍が稲光を走らせる。
ぶつかるたびに大地が震え、周囲の兵は巻き込まれて吹き飛ぶ。
「下級騎士にしては、よくここまで来たものだ」
ラクリマの瞳は冷たいが、その声には僅かな愉悦があった。
「だが、英雄を気取るには早すぎる!」
槍が雷鳴を纏い、アレンの胸を狙う。
アレンは半歩ずれて剣を斜めに叩きつけ、雷を弾いた。
「英雄なんて名は要らない! ただ――守り抜く!」
炎の連環
背後から紅蓮の炎が走った。
クラリスの詠唱が、夜空に紋章を描き出す。
「――《紅蓮連環・第七式》!」
炎の鎖が空を舞い、魔導騎士団を絡め取った。
馬が嘶き、兵の魔導が揺らぐ。
「今だ!」ギルバートが槌を振り下ろし、数名を叩き潰す。
「聖なる加護を!」
エリナの祈りが兵の盾を光らせ、矢雨を弾き返す。
「まだ動ける!」ミーナが薬を投げ込み、倒れた兵が再び立ち上がる。
最強夫婦だけではない。仲間も、街も、すべてがこの突破戦に命を懸けていた。
魔導騎士団の壁
だが皇帝直下は容易く崩れない。
魔導騎士たちが呪文を唱え、青と黒の陣が炎を断ち切る。
矢が返り、槍が突き出され、再び押し戻されそうになる。
「数も質も違う……!」兵が叫ぶ。
「それでも退くな!」アレンの声が飛ぶ。
銀の剣が閃き、ラクリマの槍と激突する。
刹那、二人の間にだけ静寂が生まれた。
「……認めよう。君はただの下級騎士ではない」
「なら退け!」
「いいえ。私は“皇帝の剣”。退くことはない」
帝王の出陣
そのとき。
空気が変わった。
平原の向こうから、重い足音が近づいてくる。
風が止み、兵も騎士も一瞬、動きを止めた。
黒の軍勢が道を開け、ただ一人の影が進む。
冠も鎧も不要。
その存在だけで戦場を支配する男。
「……帝王シグマール」
クラリスの声が震えた。
シグマールはアレンとクラリスを見据え、低く言った。
「最強夫婦。よくここまで来た」
「……!」
「だが、英雄が英雄であるのは、死ぬその瞬間までだ」
英雄の戦場
帝王の指がわずかに動く。
地面から黒い杭が林立し、炎を押し返す。
アレンが斬り、クラリスが燃やす。
だが次の瞬間、空から闇の矢が降り注ぎ、平原そのものが揺れた。
兵の悲鳴が響く。
だが、その中でアレンは一歩も退かない。
「……ここが英雄の戦場だ。なら、俺は最後まで立つ!」
クラリスが隣で杖を掲げる。
「私もよ! 最強“夫婦”として!」
紅と銀が並び立ち、帝王を正面から睨み返した。




