第4話 仲間との出会い
盗賊を撃退した翌朝、村の空気は明らかに変わっていた。
昨日まで漂っていた諦めの色は消え、代わりに希望の光が差している。
村人たちはまだおそるおそるではあるが、アレンとクラリスを「守護者」として見始めていた。
朝の広場では子供たちが泥を払い、老人が崩れた柵を直そうとしている。
「守る者」がいると知っただけで、人はこうも変わるのだ。
「……人の心って、意外と脆くて、でも強いのね」
クラリスは窓辺で、笑いながらつぶやいた。
昨日まで泣き腫らした目をしていたはずの少年が、今日は木の枝を剣に見立てて振り回しているのを見て。
アレンは剣の手入れをしながら答える。
「信じられる存在がいるだけで、人は立ち上がれる。騎士団にいた頃は、それを忘れてた」
「……ふふ、今のあなたのほうが、ずっと“騎士”らしいわ」
そんな会話を交わしていた時、村の入口から賑やかな声が聞こえた。
「やれやれ……また盗賊にやられたと聞いて飛んできたが、もう片が付いているとはな!」
現れたのは、背中に大きな槌を背負った屈強な男だった。
腕は岩のように太く、皮膚には火傷跡や切り傷が刻まれている。
「お前は……ギルバートか!」
村人の一人が声を上げる。
「王都で名を馳せた鍛冶師じゃないか!」
ギルバートは豪快に笑った。
「名を馳せた、だと? いや、俺は“追放鍛冶師”さ。王都じゃ効率優先の量産ばかりで、俺の武具は時代遅れだと切り捨てられてな。だがな――俺の作る剣は折れねぇ!」
アレンは興味深げに槌を見つめる。
「……もし俺たちと共に戦うなら、その腕を借りたい」
「おうとも! お前らの噂は道中でも聞いた。追放された騎士と、断罪された令嬢が手を取り合い村を救ったと。面白ぇじゃねぇか、俺も混ぜろ!」
こうして、最初の“仲間”が加わった。
さらに数日後。
村に流れ着いた一人の少女が、二人の前に現れた。
「……薬師のミーナと申します。どうか、この村に置いてください」
まだ十七、八ほどの年頃。
だが背中には大きな薬草袋を背負い、目の下には疲労の影が濃い。
彼女は隣国で戦乱に巻き込まれ、村を焼かれ、行き場を失ってここに辿り着いたのだという。
「あなた……どうしてそんなに必死なの?」
クラリスが問うと、ミーナはきっぱりと答えた。
「私は多くの人を失いました。だから……もう誰も失いたくないんです。治せる命を、見捨てたくない」
その真っ直ぐな瞳に、アレンもクラリスも打たれた。
「いいわ。ここでなら、あなたの力は必ず役に立つ」
「ようこそ。俺たちと一緒に、この村を守ってくれ」
こうして村には、鍛冶師と薬師という大きな戦力が加わった。
ギルバートが作った剣は村の若者たちに配られ、ミーナの薬草は子供や老人の命を救った。
村は少しずつ活気を取り戻し、辺境の地は確かな拠点へと変わりつつあった。
夜。
焚き火の前で、アレンとクラリスは並んで座っていた。
「……仲間が集まり始めたわね」
「ああ。俺たちがただの追放者で終わるかどうかは、ここからだ」
炎に照らされるクラリスの横顔は、どこか誇り高く、そして少しだけ柔らかい。
彼女は囁くように言った。
「ねえ、アレン。私たち、ただ復讐のためだけに戦うんじゃないのかもしれないわ」
「……どういう意味だ?」
「だって、あの子供たちの笑顔を見たでしょう? 私、ああいう顔を、もっと見てみたいの」
アレンは黙って頷いた。
復讐の炎で燃えていた心に、別の温もりが灯るのを感じた。
追放された騎士と、断罪された令嬢。
二人のもとに仲間が集い、村は再生へと歩み始める。
その小さな一歩が――やがて王都を震撼させる大逆襲の前触れになることを、このとき誰も知らなかった。