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追放された下級騎士、断罪された悪役令嬢に拾われて成り上がり ~共に復讐しながら最強夫婦になりました~  作者: 妙原奇天


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第48話 火口の炎

籠の圧


 朝の空は鉛のように重かった。

 帝国が築いた「動く檻」は、黒柱の残骸と新たな陣が絡み合い、王都を押し潰すように迫っていた。

 風は止み、空気が淀み、兵の胸に鉛が詰まるような圧が降りていた。


 広場に集まった兵たちは沈黙していた。

 その中心で、アレンとクラリスが立っている。

 「今日が決戦だ」アレンは剣を掲げた。「俺たちは籠に閉じ込められたわけじゃない。籠を破って外へ出る!」


 クラリスの紅の瞳が燃える。

 「私が穴を空ける。あなたが広げる。……最強夫婦で、未来を掴む!」


 兵たちの鬨の声が、淀んだ空気を震わせた。


火口の準備


 王都北門。そこに黒柱の連鎖が最も密に絡んでいた。

 クラリスは魔法陣を描き始めた。

 円ではない。三重の螺旋。地脈を絡め取り、逆流させ、熱を一点に集中するための陣。


 「……クラリス、体がもたない」アレンが低く言う。

 「わかってる。でも、やる」

 クラリスの額から汗が滴り落ちる。杖を突き、地面に紅蓮を注ぎ込む。


 ギルバートが槌を構え、周囲を守るように立った。

 「俺たちが時間を稼ぐ。好きに暴れろ」

 エリナが祈りを捧げ、ミーナが気付薬を用意する。

 全員が最強夫婦を守る壁になっていた。


火口の炎


 螺旋が完成した瞬間、クラリスが叫んだ。

 「――《紅蓮火口・解放》!」


 大地が轟き、地脈が逆流する。

 地面が裂け、黒柱の根が炙られ、火山の噴気のように炎が噴き上がった。

 紅の炎は夜のような檻を押し上げ、黒い陣を焼き裂いていく。


 「穴が……開いた!」兵たちが叫んだ。

 アレンが剣を構える。

 「今だ!」


 銀の刃が紅の炎をまとい、突破口へ飛び込んだ。

 槍が迫る。盾が突き出される。

 だがアレンは止まらなかった。剣が黒い楯を断ち、兵の列を弾き飛ばす。

 炎がその背を追い、突破口を広げていった。


命を削る魔導


 クラリスの体が震えていた。

 火口の炎は、魔力だけでなく命を削る。

 紅蓮の瞳がにじみ、視界が霞む。

 それでも杖を離さない。

 「……まだ。まだ広げる!」


 ミーナが叫ぶ。「クラリス様! もう無理です!」

 「いいの。ここで倒れても、アレンが――」

 声が震えた。だがその震えは、決意の熱に変わっていた。


 アレンが突破口の向こうから叫んだ。

 「クラリス! 生きろ! 一緒にだ!」

 その声に、クラリスの紅が再び燃えた。

 「ええ……生きる! あなたと一緒に!」


突破の道


 黒柱の連鎖が崩れ、檻に裂け目が走った。

 兵たちが一斉に駆け出す。

 「道だ!」「外へ!」


 ギルバートが槌を振るい、敵兵を吹き飛ばす。

 エリナの祈りが兵の足を支え、ミーナの薬が倒れた者を立たせる。

 全員が声を合わせて突破口を走った。


 アレンは先頭で剣を振るい続けた。

 紅蓮を纏った銀の刃が、黒の兵列を切り裂く。

 「俺たちは閉じ込められない! 未来は――自分たちで掴む!」


帝王の一手の真意


 その光景を、帝国本陣からシグマールが見ていた。

 「突破したか」

 だが、その瞳に焦りはなかった。

 「……いい。想定通りだ」


 宰相セイルが低く頷いた。

 「籠は“逃げ道”を生むための仕掛け。彼らが出た先に、牙を置いてあります」


 シグマールの口元がわずかに笑んだ。

 「さあ、英雄よ。出口の先で待っている」

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