第3話 共闘の誓いと初陣
荒れ果てた辺境の村に、新しい風が吹き始めていた。
アレンとクラリスが狼の群れを退けた翌日。
村人たちはまだ半信半疑ながらも、二人の存在を「希望」として見つめ始めていた。
「村を守ってくださると……本当に信じていいのですか?」
白髪交じりの老人が、深く頭を下げて問う。
「俺たちがここにいる限り、この村を見捨てはしない」
アレンはそう答えた。かつて騎士として誓った忠義の言葉を、今は“辺境の村”へと向ける。
だが、安堵は長く続かなかった。
――その日の昼。
見張りに立っていた少年が、慌てて駆け込んでくる。
「た、大変だ! 森から武装した連中がこっちに!」
村人たちがざわめく。盗賊だ。
この辺境に住み着き、弱き村を狙って略奪を繰り返してきた連中に違いない。
「来たわね」
クラリスは冷ややかな笑みを浮かべた。
彼女にとっても、これは“試練”だった。貴族の身分を失った自分が、力で立つことを証明する場。
「アレン、いける?」
「むしろ好都合だ。ここで俺たちの覚悟を見せつける」
やがて、十数名の盗賊が村の入口に現れた。
粗末ながらも鋭い剣や槍を携え、笑いながら村人を威嚇する。
「へっ、また骨と皮だけの連中かと思ったら……おやおや?」
先頭の男がにやりと笑う。
「見慣れねぇ顔がいるじゃねぇか。綺麗なお嬢ちゃんに、でかい剣を持った若造……。ちょうどいい、荷物と女を置いていけ」
その下卑た笑い声に、村人たちは顔を青ざめさせる。
だが、アレンとクラリスは微動だにしなかった。
「――俺たちの最初の相手としては、少々格が落ちるな」
アレンが剣を構え、低くつぶやく。
「落ちるどころか、泥にまみれた害虫よ」
クラリスの声は凛として響いた。
盗賊たちが怒号を上げ、一斉に襲いかかる。
アレンが前に出た。
剣閃が走り、二人、三人と盗賊が吹き飛ぶ。騎士団で磨いた剣技は健在であり、むしろ“自由”を得たことで研ぎ澄まされていた。
「なっ……強ぇ……!?」
「うろたえるな! 数で押せ!」
だが、数の優位を頼みにしていた盗賊たちの背筋を凍らせたのは、次の瞬間だった。
「《封縛の連鎖》」
クラリスが呪文を唱えると、地面から黒い鎖のような魔力が伸び、盗賊の足を次々と絡め取った。
貴族社会で“悪役”と呼ばれた令嬢の知略は、魔導の才と共に生きていたのだ。
「動けねぇ……!」
「足が……!」
「今よ、アレン!」
「おうっ!」
アレンが縛られた盗賊たちを次々と叩き伏せていく。
鎖に囚われた敵は回避もできず、ただ次々と地に沈むだけだった。
やがて、残った数名が恐怖に駆られ、森へと逃げ出した。
「ひ、ひいい! 化け物どもだ!」
「もう近づくな! 二度と来るか!」
村に、静寂が戻った。
アレンが剣を収めると、クラリスが軽やかに微笑む。
「ふふ……初陣にしては、悪くない戦績じゃない?」
「お前の補助があったからだ。俺一人じゃ押し切れなかった」
「当然でしょ? だって私たちは、共闘するんだから」
そのやり取りに、村人たちは目を見開き、やがて歓声を上げた。
「すごい……本当に盗賊を追い払った……!」
「この村に……救世主が……!」
「いや、救世主なんて生ぬるい! 英雄だ!」
震えていた老人が、涙を流しながら二人に跪いた。
「どうか……どうか、この村を導いてください!」
アレンとクラリスは顔を見合わせる。
互いの瞳には、同じ光が宿っていた。
「――なら決まりだな」
アレンは剣を掲げ、宣言した。
「この村を拠点に、俺たちは立ち上がる!」
「ええ。そして必ず、王都に復讐を果たすわ」
クラリスの声は誇り高く響き渡る。
荒れ果てた辺境の村に、新たな秩序と力が芽吹いた瞬間だった。
追放された騎士と、断罪された悪役令嬢。
二人の共闘が始まった今、この村はもうかつての“廃墟”ではない。
ここから、最強夫婦の逆襲が幕を開ける。