第38話 決戦の幕開け
夜明け前の空は重く曇っていた。
東の地平線には、無数の松明が蛇のように連なり、赤黒い光が波のように迫っていた。
十万の帝国軍――その圧倒的な威容に、誰もが息を呑んだ。
「来たか……」
アレンは剣を握り、城壁の上からその光景を見据えた。
銀の鎧に朝日が反射し、彼の背を光で包む。
隣には紅のマントを纏ったクラリスが立っていた。
紅の瞳が揺らぎなく敵軍を見つめ、杖を高く掲げた。
開戦の鼓動
帝国軍の先陣が進み出た。
槍を林立させた密集陣形。戦鼓が轟き、大地が震えた。
王都の兵士たちは怯えながらも剣を構える。
「……十万だぞ……!」
「数が違いすぎる!」
その声を、アレンが一喝した。
「数で怯むな! 俺たちは追放された者だ! 数ではなく意志で立ってきた!」
その叫びが兵の心に火を灯す。
帝国の猛攻
号令とともに、帝国軍の矢が空を覆った。
黒い雨のように降り注ぐ矢が、城壁を打ち、兵を貫いた。
「防御を!」
クラリスが叫び、紅蓮の障壁を展開する。
炎の壁が矢を焼き払い、兵士たちを守った。
「魔導師か……厄介だ」
帝国将が唸り、次なる合図を送る。
重装歩兵が前進し、城門へ迫る。
衝撃とともに城門が揺れた。
大木を担いだ破城槌が打ち付けられ、石が軋む。
「門がもたん!」
兵の叫びが響いた。
盾の誓い
アレンは剣を掲げ、城門の前に立った。
「ならば、俺が盾になる!」
門が破られる瞬間、アレンは飛び出し、先頭の兵を斬り伏せた。
銀の剣が閃き、血が飛び散る。
その姿に兵たちの士気が蘇った。
「王が戦っている! 続け!」
城門前での乱戦。
アレンの剣は嵐のように振るわれ、次々と帝国兵を倒していく。
戦略の光
一方、クラリスは後方で魔導陣を描いていた。
「《紅蓮結界》……陣を囲め!」
紅い炎が地面に広がり、侵攻してきた帝国兵を包囲する。
閉じ込められた兵は混乱し、陣形が崩れる。
「今だ、撃て!」
城壁の上から矢が放たれ、敵兵を射抜いた。
クラリスの戦術で、一瞬だけ数の差が無効化された。
民の力
広場では民衆が避難するだけでなく、武器を手に立ち上がっていた。
「俺たちも戦うぞ!」
「王と王妃を見捨てて逃げられるか!」
農夫が槍を振るい、商人が矢を放つ。
その姿に兵士たちが奮い立ち、城全体が一つになって帝国軍に立ち向かった。
帝国の将
だがその時、戦場の奥から黒馬に跨った帝国将が姿を現した。
漆黒の甲冑に身を固め、巨大な斧を掲げる。
「愚かな抵抗よ! この一撃で終わらせる!」
斧が振り下ろされ、城壁の一部が崩れ落ちた。
瓦礫が飛び散り、兵士たちが押し潰される。
「……っ、強すぎる……!」
絶望が広がるその瞬間、アレンが前に躍り出た。
「俺が相手だ!」
一騎打ちの幕開け
銀の剣と黒の斧が激突し、轟音が大地を震わせた。
火花が散り、兵も民も息を呑む。
クラリスが後方で魔導を練り、兵たちを導く。
「この戦はまだ始まったばかり。――絶望するのは早いわ!」
王都と帝国、希望と恐怖。
そのすべてを懸けた決戦が、今まさに幕を開けた。




