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追放された下級騎士、断罪された悪役令嬢に拾われて成り上がり ~共に復讐しながら最強夫婦になりました~  作者: 斎宮 たまき/斎宮 環


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第31話 帝国の影

 大陸会議が終わった翌日。

 追放者の国とベルシュタインは凱旋し、小国の一部は密使を送り始めた。

 街では「最強夫婦」の名が祝歌として歌われ、子どもたちまでも剣と杖を模して遊んでいた。


 だが――その熱狂の裏で、帝国ヴァルハルドは静かに動いていた。


帝都の密議


 帝国首都ヴァルハルドの玉座の間。

 重厚な黒石の柱の間で、元老院が集い、帝王シグマールが冷たい眼差しを落としていた。


「シグルトが敗れたと?」

 低く響いた声に、将軍たちが沈黙する。


 一人が絞り出すように答えた。

「はい……大陸最強の将が、追放者の夫婦に……」


 玉座の上でシグマールはゆるやかに立ち上がり、長いマントを翻した。

「ならば我らの次なる務めは明白だ。彼らを脅威として根絶やしにせねばならぬ」


密使の派遣


 帝王は手を掲げ、影のように佇む黒衣の男たちに命じた。

「“影部”を送れ。剣ではなく、情報と混乱で追放者の国を内から崩すのだ」


 黒衣の男たちが一斉に頭を垂れる。

 彼らは帝国が誇る秘密組織――暗殺と謀略を専門とする影の軍勢だった。


「農地を荒らせ。交易路を断て。王と王妃の信頼を揺るがす噂を流せ」

 帝王の命令が冷徹に響く。

「戦う前に、敵の国を飢えと疑念で膝つかせよ」


王都の不安


 一方その頃、追放者の国の王都。

 アレンは鍛錬場で剣を振り、汗を滴らせていた。


「戦は終わっても、剣は錆びさせない……」

 彼の横で、クラリスが書状を広げ、眉をひそめていた。


「……妙ね。交易路で襲撃が相次いでいるわ。小麦の運搬隊が二度も消えた」


 アレンが剣を納め、クラリスの手元を覗き込む。

「ただの盗賊じゃないのか?」


「いいえ。動きが統制されすぎている。背後に“国家”の影がある……」


 クラリスの紅の瞳が冷たく光った。

「ヴァルハルド帝国――間違いない」


民衆のざわめき


 その頃、王都の市場では妙な噂が流れていた。


「王と王妃は毒を盛られていたらしいぞ」

「いや、実は毒を盛られたのは偽りで、芝居だ。自作自演で民の心を操っているのだ」


 ざわめきは広がり、人々の顔に不安の影が差す。

 それは確かに、誰かが意図的に流しているものだった。


 アレンは広場でその声を耳にし、歯を食いしばる。

「……奴ら、戦場じゃなく心を攻めに来ている」


王妃の宣言


 その夜、クラリスは広場の高壇に立った。

 紅のドレスを翻し、民衆に向けて声を響かせる。


「聞きなさい! 毒を盛られたのは事実。だが私たちは生きている!

 噂に惑わされるな。私たちの国を蝕もうとする“影”がいる。

 それは外の敵、ヴァルハルドの仕業だ!」


 民衆は息を呑み、やがて「王妃万歳!」と声を上げた。

 その声を聞きながら、クラリスは心の奥で呟いた。

「帝国が仕掛けるなら、こちらも全てを賭けて抗うまで」


帝王の笑み


 同じ頃、ヴァルハルド帝国。

 シグマール帝は遠くの炎を眺め、冷笑を浮かべていた。


「悪役令嬢と追放騎士の夫婦……面白い。

 だが、大陸の覇権を握るのは我が帝国だ。

 彼らが英雄と呼ばれるほど――その墜落は甘美よ」


 背後の黒衣の男たちが頭を垂れ、夜の闇に消えていった。

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