第30話 大陸会議
王都の凱旋祝賀から数週間。
大陸は揺れていた。
レオニアは敗北の余波で領土を失い、諸国の民は噂した。
「追放者の国が連合軍を退けた……」
「最強夫婦の名は、もはや大陸全土に響き渡っている」
それは恐怖であり、同時に憧れでもあった。
大陸の秩序は崩れつつあり、各国の王や貴族はついに動かざるを得なくなった。
招集
場所は中立都市リンドブルク。
古き石造りの会議堂に、大陸の諸国の旗が掲げられていた。
・商人国家セラフィードの総督
・軍事帝国ヴァルハルドの元老たち
・小国ベルシュタインの老王
・敗軍レオニアの使者
そして――追放者の国からは、王と王妃が堂々と席についた。
会議堂に集まった諸国の代表は、互いに睨み合い、重苦しい空気を漂わせていた。
開幕の火花
議長役の老公爵が口を開く。
「大陸は動乱の時代に入った。追放者の国の台頭を、我らはどう見るべきか」
すぐさまレオニアの使者が立ち上がる。
「彼らは秩序を乱す反逆者! 断罪された者と追放された者が王を名乗るなど、笑止千万!」
アレンは黙ってその言葉を聞き、クラリスが静かに立ち上がった。
「反逆者? ええ、そうでしょう。けれど――その“反逆者”が、大陸最強と謳われたシグルトを討ち、連合軍を退けたのです」
会場にざわめきが広がる。
商人の論理
セラフィードの総督が扇子で口元を隠し、冷ややかに言った。
「力ある者に市場は従う。我々にとって重要なのは“誰が勝者か”だ」
クラリスが即座に応じる。
「ならば答えは明白でしょう。勝者は私たち。敗者はレオニア。……あなた方がどちらに賭けるか、それだけの話」
総督は目を細め、扇子を閉じた。
「……交渉の才は確かに本物だな、王妃殿」
帝国の威圧
その時、ヴァルハルドの元老が低い声を響かせた。
「だが、力を持つがゆえに危険でもある。追放者の国がこのまま膨張すれば、大陸は新たな戦乱に沈む」
アレンが初めて口を開いた。
「戦を望むつもりはない。だが、俺の国を踏みにじろうとするなら、俺は剣を取る。それだけだ」
静かな声だった。
だが、その一言に会場の空気が凍りついた。
誰もが“シグルトを倒した剣”を思い出していたからだ。
揺らぐ立場
ベルシュタインの老王が口を開く。
「私は彼らと同盟を結んだ。だが、それは私の国の生き残りのためだ。他国もいずれ同じ選択を迫られるだろう」
レオニアの使者が激昂する。
「裏切り者! 次に狙われるのは貴様らだ!」
怒号が飛び交い、会場は混乱しかけた。
そのときクラリスが高らかに声を放った。
「沈黙なさい!」
紅の瞳が会場全体を射抜いた。
その声は、断罪の夜を経て鍛えられた威圧と誇りを帯びていた。
王妃の言葉
「追放者の国は秩序を壊すためにあるのではない。
誰もが見捨てられずに生きられる――それが私たちの示す“新しい秩序”です。
恐れる者は従えばいい。
拒む者は戦えばいい。
けれど、どちらにせよ私たちは止まらない」
その宣言に、沈黙が広がる。
誰もがその言葉の重みに押され、息を呑んでいた。
不穏な決着
最終的に、大陸会議は“追放者の国を正式な国家として認めるか否か”を保留した。
だが同時に、いくつかの小国が水面下で接触を申し入れてきた。
クラリスは会場を出ながら、アレンに囁いた。
「これで分かったでしょう? 大陸はもう私たちを無視できない」
アレンは頷き、剣を肩に担いだ。
「だが同時に、誰もが俺たちを狙う。……次の戦いはもっと大きくなる」
その言葉を裏付けるように、会議堂の奥で密かに交わされた声があった。
「やはり――あの夫婦は大陸の脅威だ。潰すしかない」
 




