第27話 猛将シグルトとの激突
戦場の喧騒が一瞬遠のいた。
アレンとシグルトが向かい合った瞬間、兵も民も息を呑み、両者の間に見えない結界が張られたかのような緊張が広がった。
漆黒の甲冑に身を包むシグルトは、大剣を肩に担ぎ、獣のように笑う。
「お前が“追放者の王”か。噂より小さいな」
アレンは剣を構え、静かに応じた。
「……だが小さいからこそ、ここまで生き延びられた」
「生き延びただけで王を名乗るか! ならば俺がその幻想を斬り裂いてやる!」
咆哮と共に、巨体が動いた。
怒涛の剛剣
シグルトの大剣が振り下ろされた瞬間、地面が砕け、衝撃が爆風となって周囲の兵を吹き飛ばした。
その破壊力に、味方も敵も恐怖の声を漏らす。
アレンは紙一重で刃を避け、横から斬り込む。
だが、漆黒の甲冑は岩のように硬く、刃は弾かれた。
「効かぬ!」
シグルトの蹴りが炸裂し、アレンの身体が石畳を転がる。
「アレン!」
クラリスの叫びが響く。
血の味を噛みながら、アレンはよろめき立ち上がった。
「……化け物か」
シグルトは大剣を振り回し、笑った。
「俺を斬れる者など、この大陸に存在しない!」
支える声
クラリスが杖を掲げ、闇の魔導を走らせる。
「《封鎖の鎖》!」
影の鎖がシグルトの足を絡め取る。
「ぬぅん!」
シグルトが力任せに鎖を引きちぎり、地面に叩きつける。
だがその一瞬の隙に、アレンは間合いを詰めていた。
剣が閃き、甲冑の隙間を狙って突き入れる。
鈍い手応えと共に、血が飛び散った。
「……やるじゃないか」
シグルトが笑い、傷を気にも留めずに大剣を振るう。
アレンは押し返されながらも、視線を逸らさなかった。
「俺は一人じゃない。俺の剣の後ろには――クラリスがいる!」
絆の力
クラリスが叫ぶ。
「アレン! 私の魔力を――!」
闇と炎が渦を巻き、アレンの剣に注がれる。
剣は紅蓮の光を宿し、轟音を放ちながら輝きを増した。
シグルトが目を見開く。
「剣が……光を喰っているだと!?」
アレンは叫ぶ。
「これが俺たちの力だ――最強の夫婦の力だ!」
シグルトの大剣と、アレンの光剣が激突した。
轟音が戦場を揺るがし、衝撃波が兵たちを吹き飛ばす。
互角の斬り合い。
だが、アレンの剣は少しずつシグルトの大剣を押し返していく。
決着
シグルトが吠えた。
「小僧ごときがぁぁ!」
「小僧じゃない――この国の王だ!」
アレンが全力で剣を振り抜く。
紅蓮の光が漆黒の甲冑を裂き、シグルトの巨体を吹き飛ばした。
地面に叩きつけられたシグルトは、大剣を手放し、苦笑を浮かべる。
「……なるほど、最強の夫婦……か」
そのまま動かなくなった。
戦場に沈黙が広がり、やがて歓声が爆発した。
「アレン王だ! クラリス王妃だ!」
「追放者の国が、連合軍を打ち破ったぞ!」
戦の果て
アレンは荒い息を吐き、剣を支えに立っていた。
クラリスが駆け寄り、彼の腕を支える。
「アレン……!」
「大丈夫だ。……お前のおかげで勝てた」
紅の瞳と銀の瞳が重なり、戦場の喧騒を超えて互いの想いを確かめ合った。
この瞬間、誰もが認めていた。
――追放者の王と断罪令嬢の王妃こそ、大陸の秩序を揺るがす存在であると。




