第26話 決戦の幕開け
夜明け。
王都の城壁から見渡す大地は、黒い波のように揺れていた。
――二万の兵。
それが、押し寄せてきた「対追放者連合軍」の数だった。
レオニアの旗を先頭に、十を超える小国の紋章が並ぶ。
槍の林が朝日を浴びて煌めき、戦鼓が大地を震わせるたびに兵士たちの雄叫びが轟いた。
「……圧倒的な数だな」
隣に立つギルバートが唸るように呟く。
だが、アレンの瞳には恐怖はなかった。
腰の剣を握り、静かに吐き出す。
「数で押すなら――その数の意味を無にするまでだ」
開戦前夜の布陣
城壁内では兵たちが整列し、緊張の面持ちで命令を待っていた。
クラリスが紅のマントを翻し、指揮台に立つ。
「聞きなさい! 数は劣っている、けれど恐れることはない!
私たちは追放された者、見捨てられた者――でもその痛みを知っているからこそ、誰より強い!
今日ここで示すのは、絶望を力に変える“追放者の誇り”よ!」
兵たちの目に炎が宿る。
「おおおおおおっ!」という咆哮が、城壁を揺らした。
アレンが剣を掲げ、短く叫ぶ。
「――行くぞ!」
火蓋
開戦の合図は、レオニアの大砲だった。
轟音が響き、火球が城壁を打ち砕く。石が崩れ、土煙が上がる。
「第一波、来るぞ!」
アレンが剣を抜き、城門へと走る。
鉄の槍を突き出して進む敵兵。
だが、城門の前で仕掛けられたクラリスの魔法陣が閃光を放った。
「《紅蓮の檻》!」
炎の壁が立ち上がり、先陣を焼き払う。
悲鳴と怒号が入り混じり、敵兵の隊列が乱れた。
「今だ! 突撃!」
アレンが先頭に立ち、兵たちが一斉に飛び出す。
乱戦
戦場は瞬く間に混沌に包まれた。
剣と剣がぶつかり合い、矢が空を覆う。
アレンは敵将を見つけ、一直線に駆ける。
「俺の前に立つなら――倒す!」
剣が閃き、敵兵を弾き飛ばす。
彼の動きは疾風のようで、兵たちの士気を一気に高めた。
一方、クラリスは後方で魔導を紡ぎ続ける。
「《封鎖の檻》! 《闇の棘》!」
次々に敵の突撃を封じ、王都軍の戦線を保たせる。
エリナの祈りが戦場を包み、傷ついた兵が立ち上がるたびに歓声が響いた。
「聖女様が……!」
「まだ戦える!」
奇襲の刃
その時、ギルバートが叫んだ。
「西の森から敵の別働隊だ!」
木々をかき分けて現れたのは、連合軍の騎兵部隊。
数百の馬が土煙を上げて突進してくる。
「迂回してきたか……!」
アレンが歯を食いしばる。
だが、森の影から飛び出したのは――追放者の遊撃隊だった。
盗賊上がりの者たちが仕掛けた罠が炸裂し、馬が倒れる。
「今だ!」と叫び、彼らが槍を突き立てて騎兵を翻弄した。
劣勢を逆手に取る奇襲戦術。
追放者の戦い方が、連合軍を確実に削っていく。
巨大なる影
だが戦場の向こうで、ひときわ大きな旗が翻った。
連合軍の中央から進み出たのは、漆黒の甲冑を纏った巨躯の将――ヴァルハルド帝国の猛将、シグルトだった。
「追放者どもに未来はない!」
その咆哮は戦場を震わせ、兵たちの足をすくませた。
アレンは剣を構え、シグルトを見据える。
「ならば、俺が証明する! 追放者にこそ未来があると!」
二人の間に、戦場の喧騒すらかき消す緊張が走った。




