第24話 揺らぐ大陸
ベルシュタイン王国との同盟が結ばれたという報せは、瞬く間に大陸中へ広がった。
追放された者たちが築いた国に、初めての同盟国が現れた――それは誰もが想像しなかった事態だった。
「追放者どもが、同盟を……?」
「愚かなベルシュタインめ、レオニアの怒りを買うぞ!」
各国の王宮や貴族の館では動揺と驚愕が渦巻いていた。
だが何より激しく揺さぶられたのは、隣国レオニアだった。
レオニア宮廷の怒号
レオニア王宮の謁見の間。
王は玉座から立ち上がり、怒声を轟かせた。
「何たる不覚! あの追放者の巣窟が、同盟を……!」
大臣たちは慌てふためく。
「このままでは大陸の秩序が乱れます!」
「ベルシュタインを討ち、同盟を潰さねば……」
だが老将軍が低い声で言った。
「侮ってはなりません。あの戦で、追放者の国は五千の兵を退けた。……彼らはもはや烏合の衆ではない」
王は苦々しく唸り、決断を下した。
「大陸諸国に触れを回せ。追放者を討つ“連合軍”を結成するのだ!」
王都での兆し
一方、王都。
広場では民衆が歌い、追放者の国とベルシュタインの友好を祝っていた。
だがクラリスは冷静に空を見上げ、アレンに囁いた。
「この動きは必ず波紋を呼ぶ。……もうすでに、大陸全体が揺れ始めているはず」
そこへ斥候が駆け込んだ。
「報告! レオニアが大規模な軍を召集中! さらに、いくつかの小国がそれに呼応しつつあります!」
アレンは剣を握りしめ、顔を引き締めた。
「やはり来たか……。だが逃げるわけにはいかない」
内部の影
その夜。
王宮の一室で、ギルバートが低い声で告げた。
「妙な動きがある。王都の中に、“裏切り者”が紛れ込んでいやがる」
「裏切り者……?」
クラリスが眉をひそめる。
「ああ。兵糧の倉庫に火を放とうとした奴がいた。捕らえたが、口を割らねぇ。どうやら他国と繋がってるらしい」
アレンは深く息を吐いた。
「外敵だけじゃなく、内側からも崩そうとしているのか……」
クラリスは紅の瞳を鋭く光らせる。
「ならば、私たちの敵は“国”だけじゃない。“陰謀”そのものよ」
大陸の均衡
大陸の地図の上に石駒を並べながら、クラリスは静かに語った。
「西にはレオニア。南には交易を牛耳る商人国家セラフィード。北には軍事大国ヴァルハルド。
いずれも私たちの動きを注視している。――いずれ、この小さな火種は、大陸全体を巻き込む炎になる」
アレンは剣を卓上に置き、真剣な声で答えた。
「ならば、俺たちがその炎を導く。誰かが舵を取らなければ、大陸は滅びる」
クラリスは頷き、彼の手を取った。
「ええ。最強の夫婦が、その役を担う」
揺らぎの兆候
その頃、大陸の各地でさまざまな動きが生まれていた。
・セラフィードの商人たちは「追放者の国は新たな市場だ」とほくそ笑み、密使を送り出した。
・北のヴァルハルドでは若き将軍が「いずれこの夫婦を討たねばならない」と兵を集め始めた。
・そしてレオニアは、確実に“連合軍”を形成しつつあった。
――大陸が揺れている。
誰もがそれを感じ取っていた。
夫婦の誓い
夜の王宮の塔。
アレンとクラリスは街を見下ろしながら並んで立っていた。
まだ修復の途中の街並み。だが、そこには確かに新しい希望の灯がともっている。
「アレン。私たちは、ただ生き延びるために戦ってきた。でもこれからは違う」
クラリスが囁く。
「ああ。これからは、この大陸を変えるために戦う」
二人の瞳が重なり、夜空に誓いが響く。
――“追放者の国”は、もはや一国の物語ではない。
大陸を揺るがす歴史の中心に立ち始めていた。




