第21話 新王夫妻の試練
戴冠の夜から三日。
王都の広場にはまだ焦げた匂いが漂い、瓦礫が積まれていた。
だが人々の顔は、不思議と晴れやかだった。
「さあ、次は街を建て直すんだ!」
「追放者も貴族も関係ない。皆でやろう!」
燃え残った壁の修復に、かつての乞食も元騎士も肩を並べていた。
その光景を城のバルコニーから見下ろし、クラリスは深紅の瞳を細めた。
「……信じられる? この王都に、こんな光景が訪れるなんて」
隣でアレンは頷き、剣を腰に下げたまま答える。
「信じられるさ。俺たちが選んだ道だからな」
王としての責務
だが、現実は甘くはなかった。
王宮の大広間では、重臣たちが次々に声を上げる。
「税の徴収はどうするのです!」
「辺境の村々への援助は? 食料が足りません!」
「旧王家に忠誠を誓う者たちの処遇をどうなさるおつもりですか!」
アレンは頭を押さえた。
剣を振るうのは得意だ。だが、数字や政務となると話は別だ。
クラリスが静かに一歩前へ出る。
「旧来の体制は一度すべて白紙に戻すわ。これからの国は“追放者の国”。血筋ではなく能力で役割を与える」
重臣たちがざわめく。
「女性が政を……!」
「だが、彼女がいなければこの国は持たぬぞ……」
その声は、いつしか納得のざわめきへと変わっていった。
民からの声
その夜。
広場に出向いた二人は、民衆からの直訴を受けた。
「畑を荒らされた農民たちの補償を!」
「追放された者を受け入れる宿舎を!」
「子供たちに読み書きを!」
アレンは圧倒されそうになったが、クラリスは一人一人の言葉を真剣に受け止め、次々に指示を出していく。
「薬師団を組織して、まず疫病の防止を」
「鍛冶師ギルバート、修繕用の道具を優先的に」
「聖女エリナ、子供たちの教育にあなたの力を」
民衆は涙を浮かべて叫ぶ。
「王妃様だ……!」
「クラリス様がいてくれるなら、この国は変わる!」
アレンはその横顔を見つめ、誇らしさと共に、ほんの少しの焦りを覚えた。
――剣だけでは、この国を守れない。
新たな影
だが再建の熱狂の中、不穏な報せが届いた。
辺境から戻った斥候が、緊迫した声で告げる。
「報告! 隣国レオニアが軍を動かしています!」
「なに……!?」
「王太子ユリウスが討たれた混乱を狙い、この王都を攻める気です!」
場が凍りついた。
アレンは即座に立ち上がり、剣を握りしめる。
「……やはり来たか。だが、この国はもう弱くない」
クラリスも紅の瞳を光らせた。
「ええ。今度は私たちが迎え撃つ番よ。――最強の夫婦として」