第1話 追放の夜(後半)
クラリスの声は震えていた。
だがそれは、絶望に沈む震えではない。
裏切られ、辱められ、それでもなお燃え上がる――復讐と誇りの炎。
「……俺と、あなたで?」
アレンは思わず問い返す。
「ええ。私は“悪役令嬢”として罪をかぶせられ、家も立場もすべて奪われた。あなたは“役立たず”と追放された……。同じよ、私たちは」
クラリスは夜風に髪をなびかせながら、手を差し伸べてきた。
その白い指は震えていたが、確かな意志を宿している。
「一人で抗っても、潰されるだけ。でも……二人なら。いいえ、“二人だからこそ”できることがあるわ」
アレンはしばらく、その手を見つめた。
追放されたときに感じた怒りと悔しさ。
未来が閉ざされたような絶望。
だが今、この令嬢の瞳には――同じ炎が燃えている。
裏切られた者だけが知る、孤独と痛み。
だからこそ信じられる。
自分と同じ場所に立つ者を。
「……わかった」
アレンはその手を、力強く握り返した。
「一緒にやろう。俺とあんたで、世界を覆してやる」
クラリスの瞳がわずかに潤み、だがすぐに誇り高い笑みに変わった。
「ええ。ではまず、辺境へ行きましょう。追放者にふさわしい地で力を蓄え、やがて――」
「王都に、逆襲を仕掛ける」
二人の声が重なる。
月光の下、ひとりぼっちだった騎士と、断罪された令嬢が誓いを交わした。
その瞬間から――最強夫婦伝説は幕を開ける。