第16話 処刑台の反逆
王都に響き渡った喝采は、すぐに冷たい鎖に変わった。
グレイゴールを打ち破り、民衆の前で“凱旋”を果たしたアレンとクラリス。
だが王宮はそれをそのまま受け入れるはずがなかった。
「二人を“謁見”へ招け」
王太子ユリウスの一言で、兵士たちが一斉に槍を構えた。
民衆の中からも戸惑いと恐怖の声が上がる。
「どういうことだ……?」
「さっきまで歓声があったのに……」
アレンは剣に手をかけたが、クラリスが制した。
「いいの。ここで争えば“反逆者”の烙印を押されるだけ。……行きましょう、アレン」
堂々と背筋を伸ばし、二人は王宮の奥へと進む。
その瞳は、罠を承知の上で挑む光を宿していた。
王宮の大広間
白大理石の床に反響する靴音。
天井からは黄金のシャンデリアが光を放ち、王と王太子、そして大臣たちが居並んでいた。
玉座から王が口を開く。
「アレン・クロフォード、クラリス・フォン・ローゼン。汝らの働きは耳に届いておる。だが――」
その声は急に鋭さを増した。
「王国に逆らい、勝手に勢力を築くとは、許されざる大罪! よって此処にて裁きを下す!」
王太子ユリウスが立ち上がり、高らかに叫ぶ。
「騎士アレン、令嬢クラリス! 貴様らは反逆者として、この場で処刑に処す!」
その瞬間、兵士たちが四方から迫り、鎖を投げつけた。
観衆として集められていた貴族や民衆が一斉にざわめき、広間は混乱に包まれる。
絶体絶命
アレンは即座に剣を抜こうとしたが、十を超える槍が突きつけられている。
クラリスは微笑みを浮かべ、紅の瞳を細めた。
「やはりそう来ると思っていたわ」
王太子の顔が歪む。
「余裕ぶるな! ここがお前たちの終わりだ!」
その声を遮るように、聖女エリナの祈りの声が響いた。
「光よ、我らを守れ――《聖障壁》!」
黄金の光が広間を覆い、兵士たちの槍を弾き返す。
群衆が息を呑んだ。
「聖女が……追放者に味方している!?」
「これは……ただの断罪ではない!」
動揺が広がる。
反逆の刃
その隙を突き、アレンが剣を抜いた。
古き血の力が再び光を帯び、広間に眩い輝きを放つ。
「俺たちはもう無能じゃない! ここで示す――真実を!」
一閃。
迫り来る兵士たちを次々に弾き飛ばし、鎖を断ち切る。
クラリスは杖を掲げ、魔導の鎖を王太子の足元に走らせた。
「あなたこそ真の反逆者よ、ユリウス!」
王太子が呻き、床に縛り付けられる。
民衆の目撃
広間に集まった民衆と貴族たちは、その光景を目撃していた。
“断罪されたはずの令嬢”が王太子を拘束し、“追放された無能”と呼ばれた騎士が兵士を圧倒している――。
誰もが理解した。
この処刑は“真実を隠すための茶番”であったと。
「……我らは見てしまった。王都の欺瞞を……」
「追放された者こそ、正義を持っている……!」
ざわめきはやがて大きな歓声となった。
王都の崩れ始め
宰相バルドーが蒼白な顔で立ち上がる。
「ば、馬鹿な……ここまで計算が崩れるとは……!」
クラリスはその顔を冷ややかに見つめ、静かに告げた。
「あなた方の時代は終わりよ。真実を切り捨て、都合で人を裁く王都は――もう必要ない」
アレンは剣を掲げ、広間に響き渡る声で叫ぶ。
「俺たちは追放者の国を築く! 今日この瞬間から、お前たちの時代に終止符を打つ!」
轟く歓声と怒号。
処刑の舞台は、一転して“王都の権威を打ち砕く舞台”となった。