表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/56

第15話 華やかな凱旋

 王都の城門前に、人々の波があった。

 白い城壁の前に立つ騎士たちの槍が陽光を弾き、喧噪がざわめきを超えて熱気に変わっていく。


「本当に来たのか……」

「追放された騎士と断罪された令嬢だろう? 死にに来たようなものじゃないか」

「いや、聖女まで従えているらしいぞ」


 群衆の視線が一斉に城門へ向けられる。

 そこに現れたのは、一団を率いる二人の姿――アレンとクラリスだった。


 アレンは鎧をまとい、剣を腰に下げ、その歩みは一切の迷いを感じさせない。

 クラリスは深紅のドレスに身を包み、紅の瞳を堂々と輝かせていた。

 彼らの背後には、鍛冶師ギルバート、薬師ミーナ、そして聖女エリナ。

 さらに、辺境から共に歩んできた数十名の仲間が従っている。


 群衆が息を呑んだ。

 まるで敗者ではなく、勝者が帰還するような姿。

 人々は呟いた。

「……凱旋だ」


 城門の前で、王都の騎士団が槍を揃える。

 その中央に、副団長グレイゴールが立ちはだかった。


「アレン・クロフォード……! 貴様、まだ命が惜しくないようだな」

「命を捨てに来たんじゃない。真実を示しに来た」

 アレンの剣がきらめく。


 クラリスが一歩前に出て、群衆に響くように声を放った。

「聞きなさい! 私は“嫉妬深く醜悪な悪役令嬢”と断罪されたクラリス・フォン・ローゼン!

 だが真実は違う――私は陥れられ、すべてを奪われた! 今日ここに戻ったのは、復讐のためだけではない。

 追放され、断罪された者たちが生きる道を示すためよ!」


 その声に群衆が揺れる。

 王都の民衆の中にも、不満と疑念を抱えていた者たちが少なくなかったのだ。


 その時、城門の上から響く声。


「くだらぬ!」

 王太子ユリウスが姿を現した。

 金の髪を翻し、傲慢な笑みを浮かべている。


「お前たちは追放された敗者! いまさら何を叫ぼうと、王都の秩序を乱す反逆者にすぎぬ!」


 だが、その声にアレンが即座に応じた。


「ならば剣で示そう! 俺が本当に無能かどうか――お前たちの“誇り高き騎士団”で証明してみろ!」


 その挑戦に、民衆がどよめく。

 王太子の顔に一瞬の動揺が走った。


「……よかろう。グレイゴール、副団長! この場で奴を叩き伏せろ!」


 グレイゴールが前に出る。

 巨大な剣を構え、アレンと対峙した。


「お前ごときが、俺に敵うはずがない!」

「それを決めるのは――剣だ!」


 次の瞬間、剣戟が響き渡った。

 鋼が火花を散らし、城門前の空気が震える。

 グレイゴールの剛力が唸りを上げるたび、石畳が砕ける。

 だが、アレンの剣は揺るがなかった。


 かつて抑え込んでいた力――古き血の輝きが、再び剣に宿る。

 一閃。

 グレイゴールの剣は折れ、巨体が膝をついた。


「な、に……!?」


 群衆が大きなどよめきに包まれる。

 アレンは剣を収め、冷たく言い放った。

「無能なのは俺ではない。真実を見抜けぬ、お前たちだ」


 クラリスが一歩前に進み、広場を見渡す。


「見たでしょう? 追放された者は無能ではない! 断罪された者は悪ではない!

 この国が“都合”で切り捨ててきた者たちこそ、新しい力となる!」


 民衆の間にざわめきが広がり、やがて拍手が起こる。

 それは一人、二人、やがて波のように広がっていった。


 王太子の顔が怒りに染まる。

「黙れ! 貴様らを処刑し――」


 その言葉を遮るように、聖女エリナが祈りの光を放った。

 柔らかな輝きが広場を包み、人々の心を照らす。

 誰もが理解した――追放者たちの側に、真実と希望があると。


 その光景を見届け、クラリスは紅の瞳を細めた。

「これで分かったでしょう、殿下。私たちはもう、“悪役令嬢”と“役立たずの騎士”ではない」


 アレンが剣を掲げ、叫ぶ。

「俺たちは――追放者の国を築く最強の夫婦だ!」


 民衆の歓声が轟き、王都の空を震わせた。

 それはもはや敗者の帰還ではなかった。

 華やかで、そして恐るべき――凱旋だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ