第13話 噂の広がり
辺境の村が古代遺跡を攻略した――その噂は、驚くべき速さで広まった。
旅商人たちが誇張混じりに語り、行き場を失った追放者たちが「希望」を求めて集まってくる。
「古代の宝を手にした勇者がいるらしい」
「追放された騎士と、断罪された悪役令嬢が手を取り合い、奇跡を起こしたんだと」
「聖女まで味方に加わったらしいぞ」
人から人へ、尾ひれのついた話は王都へ届く頃には、ほとんど“伝説”となっていた。
王都にて
白亜の王宮。謁見の間には重苦しい空気が漂っていた。
王太子ユリウスは玉座の前で報告を受け、顔を歪めた。
「……追放された下級騎士が、古代の財宝を得たと?」
「はい、殿下」
報告する騎士の声は震えていた。
「その力は王国の軍勢すら凌ぐ可能性がある、と……」
宰相バルドーが椅子を軋ませながら口を挟む。
「放置すれば厄介ですぞ。辺境に“新たな国”が生まれるなど、王家の威信に関わる」
王太子は拳を握り、吐き捨てる。
「クラリスめ……! あれほど断罪してやったのに、まだ足掻くか! アレンとやらも同罪だ。必ず打ち砕き、見せしめにしてやる!」
広間にいた騎士たちは一斉に頭を垂れた。
――戦は避けられぬ。そう誰もが理解していた。
村にて
一方その頃。
辺境の村は人であふれていた。追放された者、戦乱から逃れた者、職を失った者……。
皆が「ここならやり直せる」と信じてやってきたのだ。
「クラリス様! 新しい畑を開墾しました!」
「アレンさん! 新しく集まった若者たちに剣を教えてください!」
広場は活気に満ちていた。
鍛冶場からは金槌の音、薬草畑からは香り、祈りの小屋では聖女エリナの癒しの光があふれている。
「……すごいわね」
クラリスは村を見渡し、思わず息を呑んだ。
ついこの間まで荒れ果てていた村が、今では小さな都市のように賑わっている。
アレンは剣を肩に担ぎ、笑みを浮かべた。
「俺たちが守ると誓ったからだ。人は希望があれば、どこまでも立ち上がれる」
クラリスは彼を横目で見て、ふっと微笑む。
「……やっぱりあなたは“役立たず”じゃなかったわね」
「それを言うなら、お前も“悪役令嬢”なんかじゃないだろ」
二人の会話に、村人たちが笑い声をあげた。
追放された者同士が手を取り合ったことで、確かに村は国の萌芽となりつつあった。
王都の動き
だが、その繁栄は同時に「敵意」を呼び込む。
王都では、軍議が開かれていた。
「辺境の勢力は日ごとに増大しています」
「すでに数百の民を抱え、兵も訓練されています」
「このままでは、王国の秩序が揺らぎます!」
副団長グレイゴールが立ち上がった。
「討伐の準備を始めるべきだ。俺に軍を預けていただきたい」
王太子ユリウスは冷笑した。
「よかろう。貴様に任せる。必ずやアレンとクラリスを捕らえ、王都に引きずり出して処刑せよ」
その命令に、広間の空気が凍りつく。
王都と辺境の村――両者の衝突は、もはや不可避だった。
辺境の誓い
夜。
焚き火の前で、アレンとクラリス、仲間たちは集まっていた。
「王都が動くのは時間の問題です」
聖女エリナが告げる。
「でも……私たちには、祈りも、剣も、薬もある。負ける理由はありません」
「その通りだ」
ギルバートが豪快に笑う。
「王都の軍勢が来ようと、俺の鍛えた武具は折れねぇ!」
ミーナも静かに頷いた。
「私の薬草で、仲間を必ず立たせます」
アレンは剣を掲げ、力強く言った。
「俺たちは追放された。だが、それは敗北じゃない。今こそ立ち上がり、王都に示す時だ――俺たちが最強の夫婦であり、最強の仲間であることを!」
その言葉に、クラリスは微笑み、紅の瞳を輝かせた。
「ええ、共に行きましょう。必ず逆襲を果たすわ」
火の粉が夜空へ舞い上がる。
噂は広がり、勢力は増し、王都との戦火は目前に迫っていた。