第12話 古代遺跡の財宝
隣国の使者が去った翌朝。
クラリスは机に広げた古びた羊皮紙を指でなぞっていた。
それは、かつて侯爵家の蔵書庫に眠っていた「古代遺跡の地図」。追放されるとき密かに持ち出したものだ。
「……この辺りに“財宝”が眠る遺跡があると記されているわ」
クラリスの言葉に、アレンが眉をひそめる。
「財宝?」
「資金よ。村を国に育てるには、剣も薬も足りない。そして金もね。いくら鍛冶や交易を広げても、すぐに王都との戦に耐えられる力にはならないわ」
アレンは剣を腰に下げ、頷いた。
「つまり、その財宝を取りに行く必要があるってことか」
「ええ。そして――これはただの金銀じゃない。古代の魔導具が眠っている可能性が高いの」
その言葉に、ギルバートとミーナも目を丸くした。
そして聖女エリナは小さく息を呑む。
「古代の魔導具……もしそれが本当なら、王都の軍勢にも対抗できます」
昼過ぎ。
一行は森の奥へと足を進めた。
湿った空気と絡みつく蔦を抜けると、苔むした石造りの門が姿を現した。
「これが……遺跡」
アレンは剣を抜き、慎重に周囲を見渡す。
内部は薄暗く、石壁には不気味な文様が刻まれていた。
床には古い血の跡、そして崩れかけた石像が並んでいる。
「罠があるわ。気をつけて」
クラリスが警告を発した直後、床の石が沈み込む。
――ガシャン!
矢が壁から雨のように飛び出した。
「下がれ!」
アレンが盾代わりに剣を構え、矢を弾き飛ばす。火花が散り、ミーナが悲鳴を上げる。
「大丈夫よ、通れる道はある」
クラリスは壁の文様を指でなぞり、即座に仕掛けを見抜いた。
「ここのスイッチを押せば……」
石像が動き、道が開ける。
仲間たちは驚きと感嘆の声を上げた。
奥へ進むと、巨大な扉が待ち構えていた。
その中央には宝石のような赤い瞳を持つ石像――守護者の魔物が眠っていた。
「……嫌な予感がするわね」
クラリスが息を呑む。
次の瞬間、石像の瞳が光を帯び、轟音と共に動き出した。
巨体が石床を揺らし、重い腕を振り下ろす。
「行くぞ!」
アレンが剣を振り上げる。
鋼が火花を散らすが、石の巨人には傷ひとつ付かない。
「硬すぎる……!」
「なら、魔導で!」
クラリスが詠唱を唱え、鎖の魔法で巨人の脚を縛る。
だが石像は唸りを上げ、鎖を砕いた。
「くっ……!」
「アレン!」
その瞬間、アレンの剣が再び光を放つ。
覚醒した“古き血の力”が剣に宿り、眩い輝きとなって刃を包む。
「はああああっ!」
一閃。
石像の腕が砕け散り、巨体がぐらりと揺れる。
「今よ!」
クラリスが叫び、二人の魔力が共鳴する。
アレンの剣がさらに輝きを増し、巨人の胸を突き破った。
轟音と共に、石像は粉々に崩れ落ちた。
扉が開く。
中に広がっていたのは、黄金の輝きと、数々の宝箱、そして中央に安置された一つの魔導具だった。
それは古代文字が刻まれた黒い杖。
クラリスが手を伸ばすと、杖は彼女の手に吸い込まれるように馴染んだ。
「……これは、“王家の宝具”に匹敵する力……」
その場にいた誰もが息を呑んだ。
これで、王都と正面から渡り合える武器を得たのだ。
夕暮れ、村に帰還した一行を人々は歓声で迎えた。
宝は資金として村を潤し、魔導具は象徴として皆を奮い立たせた。
「これで……俺たちの国はさらに強くなる」
アレンは拳を握りしめる。
「ええ。そして王都に見せつけるのよ。私たちが、もはやただの追放者ではないことを」
クラリスの紅の瞳が焔のように輝いた。
辺境の村は、財宝と宝具を得て、新たな段階へと進む。
“追放者の国”の逆襲は、いよいよ現実のものとなろうとしていた。