第1話 追放の夜
「アレン・クロフォード。お前を――騎士団より追放する」
その宣告は、冷たい石造りの広間に響き渡った。
王都の騎士団本部。整列した騎士たちの前で、団長は断罪するような眼差しをこちらに向けていた。
――わかっていた。
功績を上げても、称賛されるのは上官。失敗の責任は、必ず下っ端の自分に押し付けられる。
それでも耐えてきたのは、「いつか認められる」という希望があったからだ。
だが、その希望は今、粉々に砕かれた。
「異議は、あるまいな」
「……いいえ」
アレンは静かに剣を外し、床へ置いた。
鋼の音が虚しく響く。
その瞬間、仲間だと思っていた者たちの嘲笑が耳に刺さった。
「ははっ、功績を横取りされるのがオチだってのに、よくもまあ真面目にやってたよな」
「これで“役立たず”が一人減って清々する」
見返してやりたいと思った。だが今はただ、拳を握りしめることしかできない。
――俺は、ここまでなのか。
夜。
城門を出ると、月光が石畳を白く照らしていた。
行くあてもなく、ただ暗い道を歩く。背中には小さな荷物袋ひとつ。
王都での居場所は、もうどこにもなかった。
胸に残るのは、悔しさと怒りだけ。
だが、それをぶつける相手もいない。
そのとき。
遠くで蹄の音が聞こえた。
振り返ると、一台の馬車が走ってくる。
金糸の刺繍を施した豪奢な馬車――だが、その窓から顔を出していたのは、泣き腫らした赤い瞳の少女だった。
「……止めて」
馬車が急停止し、彼女は外へと降りてきた。
夜風に揺れる金髪、ドレスの裾を引きずりながら。
――クラリス・フォン・ローゼン。侯爵家の令嬢。
王都の社交界で名を馳せた、美しき令嬢にして……今まさに、「悪役」として断罪された女。
「あなたも……追放、されたのね」
月明かりの下で交わる視線。
その言葉に、アレンは言葉を失った。
騎士と令嬢。
どちらも裏切られ、見捨てられた者同士。
その瞬間、何かが重なり合った気がした。
「ならば――」
クラリスは涙を拭い、凛とした声で言った。
「一緒に世界に抗いましょう。あなたと私で、すべてを覆すのよ」
その言葉は、夜空に灯る星のように、アレンの胸に火をともした。