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第二話 捜査開始

 八月二十四日。事件の起きた次の日。


「おうおう、エリート刑事さん! 次の事件もパパっと解決しちまえよ!」


「なんであんたは、事件が起こったってのにそんなテンション高いんだよ……」


「まあまあ、そんなこと言ってないで俺の昇進のための糧になってくれよ、エリート刑事!」


「はあ……」


「そんな俺と一緒でうれしいのか! うれしいぜ」


「嬉しいと思ってると?」


「まあまあ、相方なんだから仲良くいこうぜ?」


「……」


***


「今回の殺人事件の担当を発表する。箱根拳太郎、讃井敦嗣。今回の事件はお前たちに任せた」


 箱根たちがそういわれたのは、事件が起きた次の日、八月二十四日だ。事件が発覚したのは八月二十三日。被害者は自室で死んでいた。わかっているのはまだこのくらいだそうだ。

 

「全力で事件解決に取り組んでくれ。早期解決を願っている」


 そうは言われても。この事件はさほど難しいわけではなさそうだ。が、かといって簡単そうでもない。だが、こんな相方と、長期間一緒に仕事をするのは嫌だ。


 箱根は、自分自身の精神的にも、できるだけ早く解決しなければと思った。


***


「おい、おいてくぞ、讃井」


 事件現場に到着した。箱根は車から降りて讃井を急かす。


「待ってくれよ! エリート刑事さん」


 讃井はそう言って、車の中で悠長におにぎりをほおばっている。こいつは事件を本気で解決する気があるのだろうか。箱根は疑問に思った。そうはいっても、この事件の間は相方だ。


「お前、事件にもっと真剣に向き合え」


 自分がこいつを正しくしてやればいいのではないか。若きエリート刑事はそんな風に考えた。


「いやいや、エリート刑事さん。『腹が減っては戦はできぬ』だぜ?」


 急いで食べたのか、手に持っていたおにぎりを食べ終わった讃井は、その豊満な体を揺らして言う。


「被害者遺族の気持ちを考えろ! そんないい加減な気持ちで捜査をしてもいいと思っているのか!」


「……」


 反論の声は聞こえない。ようやく観念したか。納得してくれたならばよい。これで真剣に操作に向かってくれるだろうか。ただ、今のいい方は少し強かったかもしれない。箱根が、少し反省していると、讃井はいそいそと車から出てきた。おにぎりをほおばりながら。

 あの満足そうな顔は、一切の反省をしていない顔だ。今の思案は何であったのだろうか。あいつ、まだおにぎりを隠し持ってたのか。箱根はあきれた。もはや、問い詰める気力はない。


「もういい、行くぞ」


 箱根はそう言って、現場へと歩みを進める。二人はゆっくりと、この事件へと踏み込んでゆくのであった。


***


「担当刑事になった、箱根と讃井だ。よろしくたのむ」


「よろしくお願いします。鑑識の佐藤です」


 彼はそう言って、二人を事件現場の部屋まで案内する。事件が起きたのは、アパートの一室。階段を上って事件現場の部屋まで来ると、佐藤はドアの前で一度止まった。


「いいですか、我慢してくださいね?」


 死体はもう移動済みのはずだ。血痕が多く残っているということだろうか。


 佐藤が、おもむろにドアを開ける。

 事件が起こったのは三日前である。そして、二人が来たのは、死体が運び出されてすぐだ。つまり――。

 ドアが開いた。次の瞬間、二人はこれまで感じたことがない強い臭いを感じていた。それは、鼻を一瞬で貫く刃物のようであった。


「うっ……。ちょっと、失礼します」


 そう言って、箱根は一度ドアを閉めてもらい外の空気を吸わせてもらう。現場近くには工場がある。それゆえ、周囲の空気も通常よりは汚い。それでも、今の箱根にとっては大自然の空気を吸っているかのような爽快感をもたらした。

 讃井もさぞかしつらいだろうと思ってみると、何でもないような顔をして立っている。


「おい、讃井……。あんたはつらくないのか……?」


「不快に決まってるでしょ。人が腐敗した臭いだよ? 誰が嗅いでて気持ちいいんだ?」


 讃井はすこし嘲笑うようにして箱根を見る。讃井は、実をいうとベテラン刑事であった。これまで多くの事件にかかわってきた。もちろん、その中には殺人事件も含まれる。もう、このような臭いには慣れていたのだ。しかし、箱根はエリートとはいえ、まだ経験が少ない。


「人が、腐敗した臭い……。うっ」


 意識しないようにしていた。しかし、讃井に人が腐敗した臭いだと言語化され、断言されたことで彼はさらに追い詰められていた。讃井は、箱根の現状を理解していた。だが、何もないようにして、先に行くぞ、と言ってすたすたと、事件現場である部屋の中に入って行ってしまった。


 少し経ち、落ち着くと、箱根はドアの前へと戻った。佐藤さんにお願いしてマスクをもらった。人が腐敗した臭いなどと意識してしまってはまた吐き気がカムバックしてくる。考えないようにしよう。そう考え、箱根は意を決し、ドアを開けた。

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