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変わりゆく自分

作者: 細川光

第1章:衝撃の夜

山下徹、16歳。高校1年生の野球部員だった彼の日常は、平凡だが充実していた。野球部の練習は厳しく、夕方7時を過ぎてもグラウンドに残り、仲間たちと汗を流していた。2019年10月のある日、いつものように練習を終え、疲れ果てた体を引きずりながら帰路についた。街灯がまばらに点る裏道を歩いていると、突然、背後から鈍い衝撃が頭を襲った。激痛とともに意識が遠のき、彼の世界は闇に飲まれた。

目が覚めたとき、徹は見慣れない部屋にいた。病院のベッドだった。頭に包帯が巻かれ、身体が妙に軽く感じられた。鏡を見た瞬間、彼は息を呑んだ。そこに映っていたのは、知らない少女だった。長い黒髪、華奢な体つき、柔らかな顔立ち。だが、その目だけは紛れもなく自分のものだった。「何だこれ…俺、女になってる…?」

医師や看護師は「山下徹」として彼(彼女)を扱ったが、説明は曖昧だった。頭部外傷による一時的なショックだと片付けられたが、徹の身体は明らかに変わっていた。戸籍も、家族の記憶も、なぜか「山下徹、女性」として上書きされているようだった。唯一、徹自身だけが「男だった自分」を覚えていた。

第2章:新しい日常と混乱

退院後、徹は学校に戻った。野球部の仲間たちは彼女を「徹ちゃん」と呼び、まるで最初から女子生徒だったかのように接してきた。だが、徹にとって、女の身体での生活は混乱の連続だった。女子トイレに入る恥ずかしさ、制服のスカートに慣れない感覚、更衣室での着替えの気まずさ。体育の授業では、男子と一緒に走っていた頃の自分の体力がないことに愕然とした。

そんな中、唯一の救いは親友の園田翔だった。翔は野球部でも一緒だった同級生で、明るく面倒見のいい性格の持ち主だ。徹が女体化したことを知ると、彼は驚きつつもすぐに受け入れた。「まあ、見た目は変わったけど、徹は徹だろ? 困ったら俺に言えよ」と笑い、徹の戸惑いを軽くしてくれた。

翔は徹の変化に敏感だった。女子のグループに馴染めない徹をランチに誘ったり、放課後に一緒に帰ったり。徹はそんな翔の優しさに感謝しながらも、女の身体で彼と過ごすたびに奇妙な違和感と恥ずかしさを感じていた。自分の心が、かつての「男の自分」とどう向き合えばいいのか、わからなかった。

第3章:変化と葛藤

高校2年になると、徹は少しずつ女の身体に慣れ始めた。鏡に映る自分を「自分」として受け入れる瞬間が増え、女子の友達とも自然に話せるようになった。だが、心の奥ではまだ「男だった自分」を引きずっていた。特に、翔と過ごす時間が長くなるにつれ、徹は新たな感情に気づき始めた。

翔は相変わらず徹のそばにいた。徹がスカートを気まずそうに直すと「気にすんなよ、似合ってるから」と笑い、徹が野球部の練習を懐かしそうに見つめると「また一緒にやろうぜ」と励ました。そんな彼の何気ない言葉や仕草が、徹の胸を締め付けた。「俺、男だったのに…なんでこんな気持ちになるんだ?」 徹は自分の恋心に戸惑い、恥ずかしさに苛まれた。

一方、翔もまた、徹との時間の中で変化を感じていた。女体化した徹を「友達」として支えようとしていたはずが、彼女の笑顔や小さな仕草に心を奪われている自分に気づいた。だが、徹が元々男だったことを知る翔は、自分の気持ちをどう扱えばいいのかわからなかった。「徹は…今、女として生きてる。でも、俺の気持ちは…どうなんだ?」

第4章:野球部を去る

高校3年になり、徹は大きな決断を下した。野球部を辞めることだった。女の身体では、かつてのように力強いスイングも、速い球を投げることもできなかった。体力の低下に苛立ちながらも、徹は「これ以上、昔の自分にしがみつくのは辛い」と感じていた。顧問や仲間たちに別れを告げ、徹は帰宅部になった。

その頃、翔もまた野球部での役割に悩んでいた。徹が辞めたことで、部活の雰囲気は変わり、彼自身もどこか物足りなさを感じていた。放課後、徹と一緒に帰る時間が彼にとっての癒しだったが、同時に、徹への想いが抑えきれなくなっていた。

ある日、校庭の片隅で、徹は翔に思い切って尋ねた。「翔、なんでそんなに俺…いや、私の面倒見てくれるんだ? 面倒だろ、こんな中途半端な奴の相手すんの」翔は一瞬言葉に詰まり、こう答えた。「面倒だなんて思ったことねえよ。徹は…俺にとって、特別なんだ」

その言葉に、徹の心は揺れた。だが、同時に恐怖も感じた。「私、男だったのに…こんな気持ち、許されるのか?」

第5章:正体不明の影

徹を襲った「何者か」の正体は、3年経った今もわからなかった。警察の捜査は進展せず、徹自身もあの夜の記憶が曖昧だった。ただ、時折感じる視線や、夜道での不気味な気配に、徹は不安を覚えていた。翔はそんな徹を心配し、放課後は必ず一緒に帰るようになった。

ある夜、翔が徹を家まで送る途中、二人は不審な影を見かけた。路地裏に消えたその人影は、どこか不気味な雰囲気を漂わせていた。翔は徹の手を握り、「大丈夫、俺がいるから」と囁いた。その瞬間、徹は自分の気持ちを抑えきれなくなった。「翔…私、怖いよ。けど、こうやってそばにいてくれるから、頑張れる」

翔もまた、徹の手を握り返しながら、自分の気持ちを確信した。「徹、俺…お前のことが好きだ。男だったお前も、今のお前も、全部含めて」

第6章:向き合う心

高校3年の秋、徹と翔は互いの気持ちを認め合った。だが、恋人としての関係は、二人にとって簡単なものではなかった。徹は「男だった自分」を完全に受け入れることができず、翔は徹の過去と現在の間で自分の気持ちをどう整理すればいいのか悩んだ。

それでも、二人は少しずつ前に進んだ。徹は翔の支えで、自分を「女として生きる徹」として受け入れ始めた。翔は、徹の過去も含めて愛することを決めた。二人で過ごす時間は、ぎこちなくも温かかった。

第7章:未来への一歩

卒業が近づく中、徹は自分の未来を考え始めた。女体化した自分を受け入れ、翔との関係を大切にしながら、どんな人生を歩みたいのか。大学進学か、就職か。まだ答えは出なかったが、翔がそばにいることが、徹に勇気を与えた。

一方、襲撃者の正体は依然として謎のままだった。だが、徹は決めた。「あの夜のことは、いつか分かるかもしれない。でも、今は翔と一緒に、前に進むよ」

二人は卒業式の日、校庭で約束を交わした。「どんなことがあっても、俺たちは一緒にいる」と。

終章:変わりゆく自分

徹の人生は、あの夜の衝撃で一変した。だが、翔との出会いと支えが、彼女に新たな自分を受け入れる力を与えた。過去の自分と今の自分、男だった記憶と女としての日常。そのすべてを抱えて、徹は未来へと歩き出した。


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