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悲劇の王女が転生して人気小説家になったら~契約結婚した夫が私のファンでした~  作者: 奏白いずも


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27、夫(機嫌が悪い)と一緒に帰りました

 状況を整理しよう。

 セレナとアレクは手を取り合い、親密な距離で二人とも泣いている。


(いや、どんな状況!?)


 セレナたちにとっては姉弟の気持ちが通じ合った感動的瞬間だが、第三者的にはどうだろう。このままでは王子を泣かせた悪女になってしまうとセレナは焦る。

 しかしラシェルの見解は全くの別物だった。


「彼女を泣かせたのか、アレク」


「ひっ!」


 沈黙していたラシェルから地を這うような低い声が発せられる。


(お、怒ってる!?)


 そのせいで二人して身体を震わせ、より強く手を握り合うことになってしまった。

 セレナは冷血公爵の本気を見たが、この場にラシェルの標的になるような人間はいない。

 至急、何か言い訳をーー

 焦ったセレナが目に止めたのは自らの本だ。


「旦那様! 実は私、アレク殿下と『王女の婚姻』についてのお話をしていました。議論が白熱するあまり涙が。アレク殿下も旅立ちのシーンではハンカチが手放せなかったそうですよ!」


「確かにあれは作中屈指の泣けるシーンだった。しかしその点で言うのなら、俺は結婚式も外せないと考える」


「そうですね! 国中から祝福される二人の姿は読んでいるだけで涙が」


 アレクからは身に覚えがないという顔を向けられたけれど無視する。 

 ラシェルは納得するだけでなく自然と会話に入ってきてくれたので助かった。


(よかったー! お母様に渡す予定だった本があって!)


「それにしてもアレクが『王女の婚姻』を語るだと? ようやくリタの素晴らしさに気付いたか」


 苦しい言い訳だったかもしれないと焦ったが、納得してもらえたようだ。ラシェルはアレクに対して大袈裟に呆れているので、セレナは畳みかけるように言い募る。


「そうなんです! 次の増刷分から『あの王子殿下も泣いた!』 と大々的に宣伝させてもらおうと、意気投合していたところに旦那様が」


「そうだったのか。俺はてっきり、君が泣かされたのではと心配したが、邪魔をしたようだな」


 ラシェルはセレナの傍に跪きハンカチを差し出す。ありがとうございますと言ってセレナが受け取るのを見届けてから、ようやく表情を緩めてくれた。

 無事に乗り切ったことを目と目で語り合い、隠れてアレクと頷き合った。


「ラシェル、奥さん借りてごめん。こっちはもう大丈夫だから、二人仲良く帰ったら?」


「言われるまでもない」


 断言するラシェルに手を引き上げられたセレナは立ち上がることを余儀なくされた。アレクから隠すように肩を抱かれ退出を促される。

 とはいえまだ話したいことがたくさんある。背の高いラシェル越しになんとかアレクを捜すと、安心してと言うように手を振ってくれた。


「僕は大丈夫だから、今日はラシェルと一緒に帰ってあげて。それで、また話そう? 僕たちはもう、いつでも話せる。そうだよね、姉さん」


「お前の姉ではないが」


 代わりに返事をしたのはラシェルだった。尤もな言い分にもアレクはめげずに反論する。


「ラシェルの妻なら、僕にとっては姉のような存在だろ」


 無理があると思ったのはセレナだけではないはずだ。しかしアレクは最後までセレナを姉と呼ぶと言い張り譲らなかった。


「アレクとは親しいのか?」


 部屋を出てラシェルと歩いていると、最もな疑問を投げられる。


「お話しさせていただいたのは初めてです」


「……君は俺の妻だな?」


 当たり前のことを訊かれたので、セレナは直ぐに頷いた。


「保管中の契約書をお見せしましょうか?」


「いや、ただ確認したくなっただけだ」


 何があったのかと顔色を窺えば、あからさまに顔を逸らされてしまった。


(え、何この不穏な空気……もしかして、やっぱり王子殿下に失礼なことをしていないか不安がられてる!? なんだか表情も硬いし!)


 不満があるような、怒っているような。顔には不機嫌ですという文字が見える気がする。花の咲く季節だというのに隣だけ寒い。

 この状態のラシェルと馬車に乗って帰宅するのは空気が重いような気がして、セレナは少しでも場を和ませようと試みた。


「旦那様! 私、急に花を見たくなってしまいました。少し庭園を歩いていきませんか!?」


 ぜひそうしたいと力説すれば、考え事をしていた様子のラシェルも行き先を変えてくれる。そこからは「俺も寄りたいところがある」と言って前を歩いてくれた。


 王宮が誇る庭園はいつでも鮮やかな花が咲き、訪れた人を楽しませてくれる。庭師とも交流のあったセレスティーナ時代の記憶から、その美しさは変わらない。とっさの思いつきではあったけれど、濃い一日だったので気分転換には丁度いいだろう。

 ところがこの場所を懐かしんでいるのはセレナだけではないようだ。花から夫へと視線を向けると、穏やかさを取り戻したようなので安堵する。やはり美しい花には効果があったようだ。


「子供の頃、母に連れられてよく遊びに来ていた。おかげでアレクとは本当の兄弟のように育った。本気でぶつかりあったことも数え切れない」


「もう喧嘩は駄目ですよ。殴るのも」


 アレクとの会話を思い出し、微笑ましい気持ちになる。しかし笑われた事が不満なのか、話を逸らされてしまった。


「もう少し奥へ行こう」


 返事をしてもらえなかったのは、場合によっては殴ることもあるということだろうか。ラシェルは大輪の花には目もくれず、花が少ない方へと進んでいく。

 ラシェルが足を止めたのは庭園の外れで、他よりも少しだけ草木が自由に育っている場所だ。


「ここはセレスティーナ様の秘密の場所だ。この場所を訪れると素直になれる気がする」


 まるで素直になれいことがあると言っているようだ。不思議に思っていると、隣から小さな呟きが零れた。


「君がアレクと楽しそうに話すのを見て寂しかった」


「旦那様?」


「アレクはあの性格だ。誰とでも親しく振る舞うが、その分本心を明かすことは少ない。だが君には、心を開いているように見えた。それも姉と呼び慕うなど……」


 なんの話だろうとセレナは疑問符を浮かべるが、真剣なラシェルに対して口を挟むのは申し訳ない気がした。

 そう見えたのなら、前世の姉としては嬉しい限りだが、正直に告げることはできない。


「置いて行かれたような気がした」


「置いていきませんよ?」


「では俺とも繋いでくれるか?」


 アレクと手を握り合っていたことを言っているのだろうか。照れくささはあるけれど、寂しかったと言われたあとでは、断ろうと言う気持ちは起らない。繋いだ手を軽く持ち上げて確認するラシェルは、機嫌が直ったのか満足そうだ。


(旦那様も姉が欲しかったということ?)


 そう考えると、恋人を通り越して夫婦だというのに、親子のような気持ちになってくる。

 甘えられたようで可愛いと感じたとこは内緒にしておこう。これから一緒に帰るので、また機嫌を損ねては大変だ。

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