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悲劇の王女が転生して人気小説家になったら~契約結婚した夫が私のファンでした~  作者: 奏白いずも


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25/28

25、前世の弟に捕まりました

25話のタイトルを変更させていただきました

再会しました→捕まりました

 アレク・ルクレーヌについてセレナが知っていることは、笑顔を絶やすことのない理想の王子様と言う評価だ。美しい容姿に紳士的な振る舞い。それでいて明るく民想いの好青年となれば、多くの人に慕われている。特に令嬢たちの間では絶大な人気を誇り、その噂はセレナの耳にも届くほどだ。

 冷血公爵と呼ばれるラシェルと仲が良いことから、正反対の二人とも言われている。頼もしい噂を耳にするたび、姉として弟の成長を密かに喜んでいた。

 ところが今、目の前にいるアレクはどうだろう。


(明るい王子どこ!?)


 焦って呼び止められたかと思えば、アレクは深刻な表情で黙り込む。彼の周りだけ空気が重く、連行される背中は声を掛けるのを躊躇わせる緊張感だ。まだ一度も噂の笑顔にお目にかかれていないので、話しが違うとセレナは混乱している。

 おまけに前世の弟とは今世では無関係。呼び出しに心当たりがないので今すぐ逃げ出したい。


(私、アレクに何かしちゃった!?)


 案内された近くの応接室に二人きり。心配なら扉を開けておいても構わないと言ってくれたが、セレナは弟を信頼することにした。

 部屋は広く立派な椅子も用意されてたけれど、アレクは入口に背を向けたまま立ち尽くしている。


「さっきはごめん、呼び間違えて。君はもう、ロットグレイ公爵夫人なのに」


 背中越しのアレクが声を発した。

 ラシェルの声を冷たく鋭いと表現するのなら、アレクの声にはほっとするような温かさがある。けれど成長した声は聴き慣れなくて、いくら呼ばれても最初は弟であることに気付けなかった。

 とはいえせっかくの声も、口調が重いのでほっとする効果は相殺されている。


(暗っ!)


 声も雰囲気も暗い。明るいも、親しみやすいも、ここにはない。

 こちらが気を遣ってしまう程、見ていられない雰囲気だった。


「私もまだ慣れていませんから、お気になさらないでください」


「へえ、そうなんだ……」


 セレナはフォローが失敗に終わったことを悟る。励ましたつもりが、逆に落ち込ませてしまった。しかもアレクは自分の言葉にも傷ついているので手に負えない。

 狼狽えていると、唐突に振り向いたアレクが頭を下げる。素早く、それでいて美しい謝罪だった。


「ごめん! 本当に、君には申し訳ないことをしたと思ってる!」


(え、何これ)


 謝罪される理由が見当たらないのだが。


「アレク殿下!? 私には謝罪の理由が思い当たらないです!」


「いや、僕にはある。僕のせいで君は、あの冷血男の妻に!」


「それは、もしかして旦那様のことですか?」


「そうだよラシェル、あいつ……。ラシェルが君に求婚したのは僕が原因なんだ」


「わかりました。わかりましたから、まずは頭を上げていただけませんか? そしてできれば座っていただきたいです!」

 

 セレナが椅子に目を向けると、ようやく現状に気付いたアレクが要求を飲んでくれる。机を挟んで対峙したことで、彼も少しは落ち着いたようだ。


「さっきはごめん、取り乱して。偶然君の姿を目にしたら、一刻も早く謝罪しないとって焦った」


 それでつい大声で呼び止めてしまったと。まるでラシェルのようだとは、この空気の中では言えなかった。


「ラシェルから相談されたんだ。結婚相手を探しているから、良い人はいないかって。そこで僕は不用意にも君の名前を挙げてしまった。こんなことになるとも知らずに……」


 こんなことというのは、結婚した事についてだろうか。


「公になってはいないけど、僕は君が母のお気に入りであることを知っていた。母の話し相手として素性の申し分ない未婚の女性。その日も母が会う予定だと言っていたから、ちょうど頭に君の名前があってさ。けどまさか、話を聞いたその足で求婚するとは思わないだろう!?」


 力が入り立ち上がったアレクと見つめ合い、激しく同意する。段階を踏んでから求婚し、結婚までの準備が大変となるのが一般的だ。

 座り直したアレクはずっと我慢していたのか饒舌に語り出す。


「昔から行動力があるのは知ってたけど、普通その日に求婚する!? プロポーズの言葉を訊いてみたらあれだし、もっと女の子の気持ちになれって、これでも叱ったんだけど」


 あれと言いながら呆れているということは、契約結婚の条件を知っているのだろう。二人の仲が良く、お互いを信頼していると言うのは本当のようだ。

 セレナは言葉に迷いながら弟を労った。


「大変でしたね」


「嘘だろあのプロポーズで了承もらえたの? その子大丈夫って思ったけど、君はラシェルには勿体ないくらい優しい人みたいだね。人生を狂わせた男を責めもしないなんて」


 どんな言葉をかけようと、アレクはいちいち自虐的であった。


「確かに想定していたことではありませんが、人生が狂ったと言うほどのことは」


 アレクはセレナが良い終わる前に身を乗り出す。


「遠慮しなくていいよ!? 僕は王子でラシェルも公爵だから、本当のことは言いにくいかもしれないけど、僕は君の味方だから!」


「い、いえ、本当に。私は旦那様と結婚できて良かったというか」


 前のめりになるアレクに押され、その分柔らかい背もたれに仰け反りそうだ。


「いいよ、あいつに気なんか遣わなくて! この部屋で話したことは他言しないと誓う。公爵家からの縁談を断るのは立場上難しかったよね? あの顔で迫られてさぞ怖かったと思う。馬車に拉致されたとも聞いたし、ラシェルは君に夢中みたいだけど、無理矢理だっらどうしようって僕、心配で心配で」


 どちらかと言うと拉致したのはセレナの方なのだが、噂はねじ曲がって伝わっているようだ。


「本当に大丈夫です。夢中というのは誤解があるようですが、無理強いされたことは何一つありません。旦那様はいつも優しかったです」


「いや、間違いじゃないって! 最近のラシェルは君の話ばかりだし、早く家に帰るようになったと思わない?」


「それはきっと、趣味について語りたいだけですよ」


 二人の仲が良いのならリタ好きである事も知っているはずだ。それだけでアレクは察したようなので、彼には打ち明けているのだろう。

 セレナがリタの本を持ち歩いていたのでわかりやすかったのかもしれない。


「それ、もしかして君もリタが好きなの?」


「はい」


 横に置いていた本を指摘される。本当は母に渡すつもりでいたけれど、預けることを忘れ持ち帰ってしまったものだ。


「そっか」


 気まずそうに本から目を逸らしたアレクに思わず問いかける。


「アレク殿下は、リタは読まないのですか?」


「読まない」


 秘密を隠しているのは自分なのに、きっぱりと断言されると少しだけ堪える。そんな反応が顔に出ていたのか、アレクは困ったように笑った。


「なんてね、嘘。実は一度だけ『王女の婚姻』を読んだことがある。何度も泣いたから情けなくて、それ以来読んでないけど。恥ずかしいから周りにも言えなくて、本もラシェルにあげちゃった」


「それで旦那様が持っていたんですね」


「君、ラシェルに初版のこと教えられたの!?」


「アレク殿下からいただいた宝物だと、嬉しそうに話していましたよ」


「そっか。本当にラシェルは君を気に入っているんだ」


 ラシェルがそこまで気を許しているのならと、アレクは秘密を話してくれる。


「臆病な僕は、最初あの本を読むのが辛くて遠ざけた。姉のことを思い出したくなくてさ。そうしたら本を読んだラシェルが押しかけてきて、素晴らしいから読めと何度も迫るんだ。でもお互い譲らなくて、そこからは大喧嘩」


「大喧嘩!?」


「あいつ澄ました顔で容赦ないよ。普通に殴ってくるもん。奥さんに言いつけてやろうっと!」


 とんでもない話題でありながら、アレクの空気が明るくなってくれたのでほっとする。


「お二人とも怪我は、大丈夫だったんですか!?」


「まあ喧嘩は大変だったけど、大人の僕が折れてあげたからね。結果として読んで良かったと思えたよ。おかげで素晴らしい物語を体験できた」


「アレク殿下にも気に入っていただけたのですね」


「そういえば君の実家が出版に関わっていたっけ。なら、もしリタに会う機会があれば伝えてよ。母の心を慰めてくれたこと、物語の中だけでも姉を幸せにしてくれたこと、感謝しているってさ。どれも僕にはできなかったことだから」


 初めて触れた弟の想いに胸が熱くなる。明るい口調で話してくれるけれど、きっとたくさんの葛藤があったはずだ。


「まあ、そんな恩人一家の娘を冷血公爵に紹介しちゃったわけで、罪悪感も凄いというか……何度謝っても足りないよ! 君が離縁を望むなら、僕は王子の権力を使ってできる限り力になる。絶対に約束するから!」


 そして最初に戻り、終わらない謝罪が続くのだった。

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