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悲劇の王女が転生して人気小説家になったら~契約結婚した夫が私のファンでした~  作者: 奏白いずも


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18/28

18、前世の伯母(現在は姑)と遭遇しました

「なぜ母さんがここにいる!?」


「『王女の婚姻』に登場するカフェを体験してみたくてな!」


 その堂々たる返答に、さすが親子だなとセレナは思った。

 同じリタファンとしてその気持ちはわかる。しかし王都を訪れるのなら一声かけてほしかったと、相反する思いの間でラシェルは項垂れる。

 そうして二人で乗る予定だった馬車には急遽乗客が増えた。話を聞けば公爵邸に寄るつもりだったらしく、向かう先はみな同じことが判明したのである。

 馬車ではセレナとラシェルが並んで座り、イレーネの不遜な態度から、まるで尋問を受けているような図になった。


「久しいな息子よ。それに息子の嫁」


「ご挨拶が遅れて申し訳ありませんでした。レスタータ家の娘、セレナと申します」


 視線を向けられたセレナはようやく挨拶をすることが許された。そして懐かしさを感じる暇もなく誘われる。


「嫁は明日、時間はあるか? 私は領地での生活に退屈していてな。王都へは遊びに来たのだが」


「母さん! 彼女を巻き込むのは」


「巻き込むとは人聞きが悪い。私はただ嫁と親睦を深めようとしているだけだ」


 ラシェルは横暴だと咎めてくれたが、セレナにとっては願ってもないことである。


(これは私、イレーネ様に試されているわね)


 現国王の姉、前公爵夫人の肩書を持つイレーネは、名前を出すだけで相手を怯ませる。この誘いも表面上は友好的だが、態度はまるで挑発するようだ。強い口調は突き放すようにも感じる。

 軽い挨拶だけで心が挫ける令嬢は多く、名前に怯えるようならそれまで。息子の嫁だとしても、無条件で好意的に接するつもりはないと言われているようだった。


「君は明日、俺と視察に向かう約束をしただろう。忘れたのか?」


 もちろん視察の約束などしていない。ラシェルは気を遣って断りやすい理由を作ってくれた。

 前世と同じ関係を築けるとは限らない。それでもセレナは引き下がりたくないと思ってしまう。


「旦那様。明日の視察は妻の同行が絶対ではないはずです。せっかく前公爵夫人が王都にいらっしゃるのですから、ぜひご一緒させていただきたいく思います」


「しかし、君が無理をする必要は」


「旦那様。私はお誘いいただけて嬉しいですよ」


「だが……」


 ラシェルは最後まで抗議してくれたが、イレーネに引き下がるつもりはないようだ。

 昔から破天荒な人ではあったが、最近は落ち着いたと思っていた。しかし実際はまだまだ落現役だと、ラシェルのため息は増えていく。その様子をイレーネは面白そうに眺めるばかりだ。

 セレナは仲の良い親子の会話に口を挟むことなく見守りながら、客人のもてなしについて計画する。大好きだったイレーネには滞在中快適に過ごしてほしい。


 家に帰るなりセレナは指示を飛ばす。当然イレーネが訪れるという想定はされていないので、食事から寝室まで全てにおいて準備が必要だ。

 とはいえ焦りをお客様に悟らせてはならない。公爵家の使用人たちは優秀なので、セレナが口を挟まなくてと上手く立ち回るだろうけれど、姿が変わったとしてもイレーネをないがしろにしたくなかった。

 そして指示に気をとられて肝心のイレーネを退屈させてもいけない。お客様を立派にもてなしてこその女主人だ。


「結婚してまだ日が浅いと記憶しているが、随分と手際がいいな」


 イレーネの感心するような呟きに嬉しくなる。厳しいと評判ではあるが、認めた相手のことは素直に評価してくれる人だ。


「前公爵夫人にお褒めいただけて光栄です」


「セレナと言ったな。私のことは義母と呼ぶことを許そう」


 ラシェルと似た口調で笑ってみせる。笑い方も彼に似ている気がした。

 といってもイレーネは昔からこの口調と態度なので、ラシェルの方が影響を受けているのだろう。


「有り難いことですが、もしよろしければイレーネ様と呼ばせていただけませんか? 義母としてはもちろんですが、私にとっては尊敬する方なので」


 嘘をついたつもりはないけれど、理由は他にもある。


(この人生、母が多くて混乱するものね)


 前世の母に、今世の母。そして義理の母と、有り難いことに現在のセレナには頼れる母がたくさんいる。


「いいだろう。では明日、楽しみにしているぞ」


 大きく笑ってイレーネは寝室に向かう。

 明日は早くから活動することになりそうなので、しっかりとモニカに起こしてほしいと頼んでから眠りに就いた。

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