第41話 摸擬戦の総括
剣技等の師匠の娘さんとの摸擬戦に勝った後、師匠とも摸擬戦を。
まあ、そんなに甘くはないでしょう。
師匠との摸擬戦に負けた。
まあ、俺は数年努力したとはいえスキルを得たばかりだし、数十年努力してきた人に負けるのは当然だろう。
師匠は、生徒たちに訓練を続けるように伝え、俺と娘さんと3人で先ほどの談話室に戻って来た。
まだ、何か話が有るようだ。
部屋に入るなり娘さんが「手を抜いていたでしょ」と怒って来た。
椅子に座る様に先生に勧められたので、それに座りながら「怪我をさせない様に全力で戦いましたけど」と言うと侮辱されたと思った感じかな。
なので、百能スロットのスキルも起動し直し、話術スキルに頼る事にした。
「横から離れて見ていても見えないなんて。なんであんなに早いのよ」
結構、本気で怒っている感じなので、師匠への恩返しの意味も込めて手の内の一つを明かす事にする。
「俺は、旅脚スキルが上級なんです。だから、俊敏なら他の人より高い事が多いだけですよ」
そう言うと「あ。あんな問題スキルに」と驚いているので。
「スキルは、設定でその力を封じる事が出来るでしょ。ステータスを上げる効果を残したまま。
俺は旅脚スキルが上級になった後は、多くの場合でその状態にしているんですよ。
非戦闘用のスキルである旅脚スキルが、戦闘時に高速化のスキル効果がOFFになることを想定していますから。
なので、戦闘時と通常時の感覚の違いは、ありませんからね」
「そ、そんな」と驚いているので師匠の方を『教えていないんだ』と思いつつ見ていると。
「うちの道場は、そう言うのは自分達で気が付けって方針なんだ」と状況を説明してくれる。
それに納得しながら「後、あまりレベルを上げていないんじゃないですか」と、もう一点感じた事を言ってみる。
この世界の鑑定スキルは人に対して使用すると相手に探られたと感じられ使った事がバレる。
まあ、天級になると相手が感知スキルとか持っていない限りバレなくはなるんだけど、今の俺の鑑定スキルは中級だから、今回の様なケースだと相手に失礼だし狡い感じになるので使えない。
なので、鑑定で娘さんの状態を確認した訳じゃないけど、あまりにスピードの差があったので推測を言ってみたのだけど。
娘さんは、悔しそうに俯いてしまった。
すると先生が、娘さんに助け舟を出す事とした様だ。
「娘は、生徒と私だけにしてしまうと、生徒の多くが私に対しピンク発情期を発症するって思っているみたいでね。
常に道場に居て、私の近くに女性の生徒は近づけない様にしているから、レベル上げのための狩りにあまり行っていないんだ」
ああ。子供の生徒が多かったけど、年頃の女性も居たか。
「道場が休みの日とかは?」
「家事は娘がやってくれるのに甘えているからね。私が家事をして、娘が魔物を狩れるような環境にしておけば良かったのかな」
そう師匠は娘さんを傷付けない様にフォローしているので、俺もそれに合わせる事に。
「家政婦を雇うとかもありますが」
「娘は、他人が家に入るのを嫌がってね。8歳で母を亡くして以降、彼女の思うとおりにしてあげたくてね」
「そうですか。僕より4年も早く。
なら、後は受け流しスキルとか身体強化スキルを身に付ける、ですかね。
あれも俊敏が上がりますし」
そう家庭の事情からしょうがないのだろうなと思いつつ、知っている範囲で言っても問題のない情報だからと、他の強化方法も言ってみる。
「そうだね。他にも方法は有るだろう」と、師匠はさすがだねという感じで言ってくれる。
そんな話をしていると、最初は俺を睨んでいた娘さんはどんどん落ち込んでいく感じ。
自分で、その程度の事も気が付けなかったと落ち込んだんだろうな。
その様子を横目で見ていると、師匠は先程の摸擬戦について確認して来た。
「君は優しいな。
私の事なんて考えず、身体強化で上がっていた素早さを使い突いて来ていれば勝てたかもしれないのに」
身体強化したのもバレタのか。
他人が使っているのを見た事があるけど、確かに使った直後にその人の雰囲気が変わったとかはあったな。
そんな身体強化スキルの使用上の注意も心に刻みつつ、師匠から何かが得られるかもと会話を続ける。
「いえ。剣での攻撃は全て防がれるって感じたんです。
だから、まあ、勝負は捨てていましたから。
そんな戦いで相手に怪我をさせたくないですし。
剣技スキルが俺より上なのは間違いないとしても、他にも何かスキルを使ったんですか?」
「君にはスキルの事を聞いた事だし言わないと不公平かな。
あれは先読みスキル。
多分、毎日摸擬戦をしながら相手の先を読もうとしていた事から身に付けられたスキルかな」
素直に聞いたのが良かったのか、師匠がスキル名とその習得方法まで明かしてくれた。
でも「先を読むですか。難しそうですね」と、本音を言うと。
「ああ。でも、余裕をもって戦える相手であれば、それなりに出来る事だから、先読みスキルが欲しいのなら意識しておくとよいかもしれないよ」
なるほどね。
自分より弱い相手との戦いでも、その余裕を使ってスキルを得る訓練に出来る場合も有るのか。
「はい。次の道標を頂きました。ありがとうございます」と言って座ったまま頭を下げる。
そして、幾つかの雑談をして、御暇をいただく事にした。
主人公は、意図した通り、師匠から新しい指針を得られたようです。




