第162話 助け合い
主人公は、なんとかラシェルと良い関係になれたようです。
でも、人と人との関係なんて簡単に壊れる。
そう委縮して、夜伽もせず添い寝をしている様です。
朝目覚めると、ラシェルを抱きしめたまま寝ていた。
ラシェルはまだ起きていない。
ああ。
このままエッチに進みたいけど、昨日我慢した意味がないか。
はあ。
相思相愛か。
しかも、幸せと感じさせたらしい。
これで、彼女に恩恵:百能により俺の持つスキルが渡せるようになる。
俺の持つ力を分け与えられるので、いきなり中級とか上級とかでスキルを渡す事すら可能だ。
まあ、その分俺の力は減るんだけどね。
でも……。
それを彼女にどう説明するの?
実は、相思相愛になった人とスキルを共有できるんだ。
そうラシェルに言ったら、俺がラシェルに優しくしていたのは恩恵:百能を使う為だったんだって思われて、愛情が冷めたりしない?
やっぱり、百能は欠陥だらけの力だと思うんだけど。
でも、言うとしたら今言っておかないと、ドンドン言い辛くなる気がする。
となると、相思相愛になる前に言った方が良いのかな。
いや。それも変だろう。
……、どうしても言う必要に迫られる事態にならない限り、スキル追加の宝玉で彼女に力を与える事にしよう。
それが無難な気がするし。
はあ。
もっと簡単な力にしてくれれば良かったのに。
そんな事を考えつつ、一応、百能メニューを表示して、未だにラシェルと相思相愛だと確認。
相思相愛か。
やっぱり、何処かのタイミングで、奴隷からは解放したいよな。
勿論、開放した途端、捨てられるって怖さは大いにあるけど。
奴隷商の話だと、恨みどころか逆恨みで殺される覚悟がいるって話だったか。
ラシェルなら大丈夫と思いたいけど……。
解放するとしたら、どのタイミングが良いんだろう。
子供を産んでくれたタイミング。
結婚するタイミング。
人族を救えると確信したタイミング。
強くなり、もう敵は居ないと思ったタイミング。
話術を天級にして、相手の思考をある程度読めるようになったタイミング。
魅了スキルで程よく魅了できるようになったタイミング?
支配スキルで、支配できるようになったタイミング?
魔眼スキルを天級にし、魅了や支配できるようになったタイミング?
最後の3つは駄目だな。
危険視されるスキルを使ってなんて、どんな落とし穴があるか分からない。
普通、相手に嫌われる行為だから、ラシェルとの相思相愛がスキルを使ったせいで無くなる可能性だってあるし。
逆に、魅了した相手とでも恩恵:百能における相思相愛になれるのなら、楽なんだろうけど。
でも、それを試すにしても、ラシェル以外で試さないと。
そんな事を考えていると、ラシェルが不思議そうに俺を見ている事に気が付いた。
「どうしたの?」
そうラシェルに聞くと。
「旦那様が何か考え込んでいる様に見えたので、朝の挨拶を遠慮していました」との事。
「ああ。今日の予定とか考えていたんだ」
そう言うと、ラシェルの方からキスをしてくる。
そして、俺の胸に顔をうずめながら「昨日夜伽をしなかったのは、何故ですか?」と聞いて来た。
「ああ。体だけが目的とか思われたくなくてね」
「別に、そんな事気にしなくても良いと思いますが」と、不思議そうに言われるが。
「いや。良くないんだよ。俺がね」
そう言うと、またキスをしてきた。
ああ。このまま一気に行きたいのに、目覚めたのが遅かったから食事の時間だ。
う~ん。
無念だ。
「昨日の夜は何かあったの?」
朝食と皆と食べ終え、借りている部屋に戻る途中に、そう確認してくるタチアナ。
「ん。何が?」
「ラシェルも貴方も、何か様子が変わった感じだし」
う~ん。
タチアナってそんなのが何となく分かるんだ。
怖いなと思いつつ、返事をしておく事に。
「昨日の夜は、夜伽を遠慮してみたんだけど、それかな?」
「は? 何で我慢するのよ」と、タチアナに心底不思議そうに言われる。
「いや。体だけが目的てって思われたくないでしょ」
「体だけが目的じゃないんだ」とタチアナは何故かそう呆れた感じで言ってくるが。
「俺は欲張りだからね。全部だよ」と、ある意味本当の事を言ってみたのだけど。
「はあ。まあ、いいけどさ」とタチアナは更に呆れた感じになった後「えっ。まさか私まで全てが欲しいとか言い始めるんじゃないよね」と、何故か驚いている。
肉体関係にある女性と、相思相愛になりたいと言うのは、そんなに変な事なのかな。
いや。
『全てが欲しい』と『相思相愛』はイコールではないか。
そう思いつつも、無難に「俺は強欲だからね」と言って俺の借りている部屋の方へ入ると皆が付いて来る。
なので、2人に椅子を進めつつ、俺は昨日寝たベッドへ座り、ラシェルはもう一対のベッドに座りながら会話を続ける。
「……。もし、私が全てを捧げたら、それでスキル追加の宝玉とか、くれると言う話になるのかな」と、タチアナは他の人に聞かれない様に、ここまで我慢していた感じの内容を聞いて来る。
「ん~、その辺は微妙だね。
所詮俺を捨てて何処かへ行くかもしれない人に、どれだけ貢ぐのかって話にもなるし」
「ラシェルには捨てられないから良いんだ」
「いや。ラシェルにだって気持ちの上でなら捨てられる可能性はあるだろうね。
奴隷契約により俺から離れられないだけで」
「それは、そうなのか。でも、奴隷契約があるからラシェルにスキル追加の宝玉とか使い易い事になるんだ」
「ああ。昇華の宝玉とかもね」
「……、昇華の宝玉もか。
と言う事は、私も強くなりたいのなら貴方の奴隷になれって事なんだよね」と、タチアナは不安な感じで探るように聞いて来るが。
「いや。恩師の御息女を奴隷になんて考えないけど」と、今現在の俺の認識を伝えると「じゃあ、何で私にまで宝玉を使うって話になるのよ」と、今度は怒った感じで聞いて来る。
なんか、おちょくられていると感じたのかな。
でも、それは誤解なので、俺の予定を伝える事にする。
「前にも少し話したけど、戦利品の分配さ。
人数で頭割りすると、タチアナへの分配は4分の1でしょ。
戦闘力で分配するとしたら、今だと俺が80%、タチアナが15%、チューリアとラシェルをあわせて5%とかかな。
それに応じた分配で、宝玉を渡すとかじゃない」
そこまで言うと、タチアナは怒った感じから落ち着いた感じになったが。
でも、しばらくすると逆に不安な感じになり「……、でもBランクの魔物を倒す必要があるって話でしょ。私にその実力はないわよ」と、更に悔しそうな感じになって言って来る。
「ああ。とりあえずはDランクとCランクを大量に倒せるようになる、って目標だろうね」
「そっか。その過程で出た宝箱の内容によっては、か」
「ああ。配分の考え方次第だけど、4個出れば1個又は6~7個出れば1個タチアナにと言う話だからね」
「……、私の事を15%の戦力って言ってくれたけど、実際は10%も無いでしょ」
「その辺は、能力の査定次第だね。近接戦闘力を重視するかどうかで変わるから、何とも言えないよ」
「……。剣技だけでなく魔法すらある程度極めている貴方には勝てないわ。
それは、ハッキリしているから。
でも、強めの魔物を大量に倒し宝箱を多く発生させ宝玉を多く得られば、戦利品の分配で私にも回ってくるって事ね」
「そのつもりだよ。最悪、進む道が違って別れる事になるって想定が必要だしね」
「うん。わかった。戦力としての評価が上がるように頑張るわ。私も」
「ああ。まあ、それ以前にパーティの強化と言う事で、宝玉使ってもいいんだけどね。当然、必要だと思ったら、使うし」
「……、それが異質な考え方なんだけどね」と、タチアナは微妙な感じになるが。
「だから、この世界には弱い人達が多いって事だとも思うよ」と、俺が真面目にこの世界の問題点を指摘する。
「そう……なのか」
「ああ。助け合わなければ、限界は低いよ」
「そうね」
そう言ってタチアナは複雑そうに黙り込んだ。
主人公が正論を言う事で、タチアナにスキル追加の宝玉を使う事は変では無いと言いくるめた様です。
まあ、軍事物資とも言える数億円以上の価値のあるモノを、そんな簡単に他人に使ったり出来ない方が常識だと思いますが。




