第136話 公爵と辺境伯
主人公達が脱出した領都に、辺境伯と領地を接する公爵がやって来た様です。
辺境伯領で起こった事件を追及する為に。
ワグスナー辺境伯の領都ソルチスに大型の魔飛行船が入港した。
魔飛行船とは、魔法や魔力を前提とした飛行船だ。
そして、その魔飛行船の所有者はレーチス公爵。
ワグスナー辺境伯領と領地を接する公爵領を治めていて、共に王国の南側を守護する役割持っている。
その公爵の配下で、この辺境伯領に滞在して力を貸していた騎士爵の広い庭に寄港。
その後飛び立ったが、魔飛行船に乗って来た者の内、十数名がこの地に残った。
そして、その残った者の内9名が辺境伯との面会に、辺境伯の館へと。
事前に連絡してあったのだろう。
無駄に豪華な応接室に、その9名は通される。
「お久しぶりです。レーチス公爵」
そう言いながらソファーから立ち上がり挨拶をしたのは、中年で少し太った程度の豪華な服装を着た人間。
その後ろに控えているのは、騎士の鎧を着たモノが4名に、いかにも文官といった衣装を着たモノが2名。
それらの者を一瞥した後「久しぶりだな、ワグスナー辺境伯」と声を掛けたのは、高齢だが背筋を伸ばし、鋭くも優しい眼光をした人間。
こちらは、高価そうだが無駄な装飾の無いあっさりとした衣装をまとっている。
その公爵の後ろに控えるのは、仰々しい全身鎧を着た4名の騎士。
それとは別に、意匠の違う鎧を着たモノが1名。
後は、それぞれ違う衣装を着た違うタイプの男性で、その内の2人はフードを深くかぶり顔を晒していない。
辺境伯が公爵に椅子をすすめ、話始めようとした時に、公爵配下の騎士の1人が問答無用で1人の辺境伯の騎士を殴り飛ばす。
そして、その騎士の首に剣を当て「公爵様、この者の首をはねてよろしいでしょうか?」と、公爵に確認をする。
「ん。どうした?」と、驚いた様子もなく返事をする公爵。
「鑑定が天級なのでしょう。こちらにばれないだろうと、鑑定をしようとしていました」
「鑑定は成功したのか?」
「おそらく妨害が間に合ったとは思いますが、首をはねておいた方が間違いありません」
そう騎士が言うと慌てて「公爵様。この者の罰は、こちらで行いますので、なにとぞ」と辺境伯が口をはさんでくるが。
「貴公の言葉に何の根拠が有るのだ。
我が配下のカーレル・イザードを殺した貴公の息子は、のうのうと罰を受けずに生活をしていると言うのに」
「そ、それは冤罪です」と、辺境伯は強い口調で否定する。
「我が配下の者が嘘を言ったと。
ならば、殺人者の称号が付いているかいないか確認させてもらう。
その為に、王国の鑑定官を借りてきておる」
「なっ。息子は今体調不良で」
「借りてきたのは、鑑定官だけではない。
密偵長にも来てもらった。
この者は、貴公の息子の気配は覚えているし、探索が天級だから犯罪者かどうかも分かるぞ」
「そ。そんな」
「それでも隠すなら、そう国王にも伝えるだけだ」
「む、息子は体調不良で人に合わせられる状態では」と、辺境伯はまたも嘘を言って誤魔化そうとするが「どうなのだ?」と、公爵は無視する事としたようだ。
「現在、自室で侍女か誰かと元気に行為中の様です。
また、気配は殺人者の気配ですね」
そう返事をしたのはフードで顔を隠している男の1人で、この男が王国の密偵長なのだろう。
その密偵長の発言に一瞬嫌な顔をした公爵だが、直ぐに気を取り直した感じで。
「それを、証言してもらえるか」と、密偵長に言うと「はい。国王にも伝えましょう」と、密偵長は恭しく軽く頭を下げる。
「まっ。待ってくれ」と、辺境伯は慌てて誤魔化そうとするが。
「跡継ぎでもない3男に固執するのう。
それとも、まさかまだ冤罪とでもいうか。
それも国王に報告するが」
「ご、誤解なのです。摸擬戦の時に起こった事故なのです」
「摸擬戦の為にカーレルが防具を着ようとしている時に2人がかりで拘束し、そこを木刀ではなく剣で突き刺したと聞いているが」
「そ。それは」
「そもそも、おぬしの言う通り冤罪なら、世界の理に殺人者と認定はされぬだろう。
まだ、言い訳が有るのか」
「わ、我らは、王国の南方を守る要。それをお忘れか」と、辺境伯は誤魔化し切れないと判断したのか、今度は怒りすら込めて大声で話をかえようとする。
しかし「忘れているのは、お前の方だろう。色々と我慢してきたが、もう終わりだ。国王にも許可は貰った」と、公爵は冷静に対処するようだ。
「な。何を」
「我らからの支援は、全て止めさせてもらう。人材も全て引き上げる。
あれはスパイだ、と言っていた様だし、満足だろう」
「待って下さい。商会も騎士団もですか」
「ああ。騎士団からも不平が上がっていたのでな。
我らは休みなく働いているのに、辺境伯の騎士団は休みがある上に、ダンジョンまで行って鍛えている、とな」
「一方的過ぎます。せめてカーレルの娘を引き渡していただければ、冤罪だと証明できますから」
「冤罪だと証明するのではなく、罪を握りつぶす、だろうが。
そもそも、当事者でも無い者を差し出せとは、どういう意味だ。
被害者の1人でしかないと言うのに」
「こ、後悔なされますぞ」と、まだ辺境伯は反省もせず強がっている。
「すでに後悔をしている。
あれほどの人材を、こんな所で失うとはな。
この辺境伯領の民が心配だが、我が領土で受け入れろと言う話になった。
これが王命だ」
そう涼しい顔で断罪する。
そして、公爵から目配せをされた公爵配下の騎士が『辺境伯領から公爵領及び他の地域への人の移動を禁止又は妨げる行為を禁止する』と言う王命の記された書類が提示し、それを公爵の前の机に置く。
「確かに渡したぞ。内容を確認した事もな」
「な、何故こんな。我らは、国境を守り続けてきたと言うのに」
「だから、今までは見て見ぬふりをしてきた。
だか、これからはそうは行かんと言うだけだ。
正直、国王も『僅かな戦功程度で甘やかしすぎた』、『これでは害の方が大きい』と後悔しているようでな」
愕然としているワグスナー辺境伯にレーチス公爵は更に事実を突きつける。
「息子をちゃんと処罰するか、我らに引き渡すか。
それらを含めて、すべて監視されておると思え。
王国軍の密偵部隊にな」
「なっ」
「これを告げる事が、せめてもの情けだ」
「私の領土で治外法権を得ている様に好き勝手にして来たくせに」と辺境伯は悔しそうに怒りを込めながら言うが。
「その場所で、カーレルはお前の息子に殺されたがな。
嫌と言う程支援もしてきたと言うのに、この様な形で裏切られるとはな」
そう言う公爵を、立場を忘れて睨んでいるが、公爵は何とも思っていない様だ。
「では、帰るぞ」
「公爵様。この者はどうしたしましょう」
「頭を死なぬ程度に殴っておけ。それで、見えていたとしても忘れるだろうて」
「見ていません。そんな暇ありませんでした」と言い訳する騎士を容赦なく殴る騎士。
殴られた騎士が、気を失ったのを確認し、公爵たちは帰って行った。
辺境伯と公爵とは仲違いをしたようです。
どちらも、力を持つ貴族なのに、大丈夫なのでしょうか。




