第134話 隠れステータス
主人公はBランクの魔物が居る魔素だまりへと討伐へ行き、宝箱からアイテムを得て、無事皆の待つ荷馬車へと戻りました。
でも。
魔素だまり巡りを終え、皆の待つ馬車に戻ると「旦那様……」とラシェルが何故か絶句しながら迎えてくれる。
その理由が分からず困っていると「何でそんなにボロボロなの?」とのチェーリアの呟きで事情を察する事が出来た。
革鎧とか、ボロボロだもんね。
そう事態を把握しているとタチアナが「何があったの?」と険しい表情で聞いて来る。
「ああ。魔素だまりに行ったら、風魔法を使うネイルベアとの戦闘になって、風魔法を食らったんだけど。
そっか。結構ボロボロだね。
傷を消す為には、エリクサーも使うべきなのか」
俺が『何てことないよ』と言う雰囲気で言うと「そ、そんな大変な傷痕なのに」と、ラシェルは納得できない感じだけど。
「魔物と命のやり取りをする訳だからね。
俺の場合は、探索で俺より弱そうな奴を選んでいるんだけど、それでもイレギュラーがあるみたいで、こうなる事はあるんだよね」
そう言うと、3人とも黙り込んだ。
探索スキルによる確認については、スキルを持っていないと分かり辛いのかもしれない。
それとも、死にそうになりながらも戦っている事が信じられないのだろうか。
彼女達の気持ちがよく分からなかったので「それでも、戦い続けないと強くなれないし、得るモノもあるしね」と事情を明るく言うと「得られたんだ」と、一番早く何時もの感じに戻った感じのチェーリアが聞いて来る。
「ああ。今日は、格納箱の宝玉が手に入ったね」
「殆ど宝玉なんて出ないか、出てもスキル消滅の宝玉って話なのに」と、チェーリアが突っ込んでくるので「多分、隠れステータスの運が高いんだと思うよ」と、言い訳と誤魔化しをすると「隠れステータスの運はあるんだ」と、今度はタチアナが強く反応する。
「ああ。どのスキルも3つステータスが上がる筈なのに、上がらないスキルがあるらしいからね。
だから、俺はその説を信じているんだけど」
「その運が上がるのではって言われているのは、何のスキルなの?」と、タチアナは更に興味を引かれた感じで聞いて来る。
「伝説のスキルである戦利品向上や確率変動スキルは、何もステータスが上がらないらしいよ。
必殺撃は、筋力と器用のステータスしか上がらない、だったかな」
「……、戦利品向上スキルとか、運と言うステータスがあったら上がりそうだし、そう考えるのが妥当なのか」と、タチアナは思案顔だ。
「確か解析鑑定で自分を鑑定しても見えないから、運なんてステータスは無いって意見も強いらしいよ。
まあ、本当のところは分からない。
だけど、ありそうだと俺は思っていて、それが俺は高いのかもって話」
「そうなの?」と、タチアナは俺の運が高いと言う話をあまり本気にしていない感じで聞いて来る。
「宝箱が出た数が少なすぎて断言できないけど、スキル消滅の宝玉以外の宝玉の入手率の方が高いからね」
「他に何を持っているの?」と、タチアナは俺が隠している事を遠慮なく聞いて来るので。
「いや。機密事項だけどね。まあ、言ってもいいなら、スキル待機の宝玉とかだね」
「スキル消滅の宝玉は、取得しているスキルを消滅させスキルの装備枠及び装備待機枠を空けてくれるけど、再度取得する為には一からスキル取得の訓練する必要がある。
そのスキル消滅の宝玉と違って、宝玉を使って取得しているスキルを消しても取得待機状態になり、取得の為の訓練をしなくても必要な時に再度取得が可能な宝玉よね」
そう、タチアナが宝玉の違いを確認してくる。
「ああ。スキル保持の宝玉と違って、それまで得ていた力は初期化され下級のグレード0から始まるけどね」
「それでも、取得待機状態でも経験値を得てグレードを上げられるから、全然違うらしいでしょ。
と言うか、値段も全然違ったでしょ」
そう、タチアナはその金額の違いも確認してくるので、うろ覚えの金額を言う事にする。
「確か、消滅の方が1万GAZUで、待機の方が100~1000万GAZUだったかな。
希少性が違うから値段が大きく違うけど、そもそも消したり待機させたりするスキルは、簡単に得られる農業スキルとかだろうから、あまり違いが無いとも言う人も居るけどね。
何らかの理由で、レベルを上げられず、取得・装備出来るスキルの数を増やせない人を除くとね」
「そうね。スキルスロットの装備待機状態の空き枠どころか、スキルスロットに装備できる枠にすら余裕がある人が殆どだし、それはそうだろうけど。
でも、スキル待機の宝玉も、スキル追加の宝珠と同程度に出にくいって話なのに、本当に運が良いんだ」
と言っているタチアナは、俺は運が良いかもと言う発言を、ある程度本当かもしれないと思った様だ。
「まあ、今のところは、だよ。
Dランクの宝箱だと、宝玉の入っていない宝箱も多かったと思うし。
だけど、奴らより運が良くて宝玉が手に入り易いのなら、彼奴らに対抗できそうだからね」
そう言うと真剣に黙り込むタチアナ。
「まあ、辺境伯領の領軍に縛られている奴らより自由に活動できるから、それで強くなれないか、と言う方が本命だけどね」
「そっか。そうだよね。私達は、彼奴らより自由に動けるんだから」
「そういう事」
そう言いつつ、考えてしまう。
彼女達に俺が転生者だと告げて、戦利品向上スキル等の力も明かし、共に全力で強くなって行けるかを。
転生者だとバレた人達は、赤ん坊の内に強制的に奴隷にされた。
成人で且つある程度強くなった俺は、どう扱われるのだろう。
それが、ハッキリするまでは、出来るだけ明かさない方がいいだろう。
まあ、もう疑われているとは思うが。
俺の人格が、前世のモノになりつつあるとまでは言わないが、前世の意識が強すぎてこの世界の一般人らしくない発言をしてしまうのは問題だよな。
そんな風に、自分だけの思考に落ち込んでいると、城壁が見えて来た。
主人公の意識は、どうも前世の方がベースになって来ているようですね。
『この世界に』『自分に』絶望していたこの世界の主人公の人格は、どうなっているのでしょう。




