第105話 自衛のための武器
主人公は、雇った奴隷と会話をして、二人の要望を聞いてみたのですが。
奴隷と言う立場からなのか、信頼関係が無いからか、思ったような会話とならなかった様です。
なので、とりあえずは諦めて、二人をお風呂に入れる事にしたようです。
借りている建屋で風呂の準備を終え、二人が入浴している間にエリクサーを造る事にした。
彼女達の体の欠損部分を再生させる為の物を。
魔法薬は、その効用を変化させる事も出来る。
解毒薬なら特定の毒に特化させることで、下級の解毒薬では本来解毒できない毒を治療出来る様に造る事も可能だ。
エリクサーの場合は基本、浄化、HP回復、MP回復、状態・精神異常治療、再生といった効果が付いているのだけど、他の効果を下げる代わりに、再生の力を強化したモノを造る事が出来る。
まあ、先生からもらった上級エリクサーを使えば彼女達の欠損部位程度なら簡単に治りそうなんだけど。
でも、あれは切り札だし、チェーリアの方とは別れる事になるかもしれないから、あまり秘密は明かせないしね。
でも、中級魔法薬学を持っている人なら、それなりに居るから、それをチェーリアに明かす程度なら大丈夫だろう、と判断し再生の特化した下級エリクサー作成の作業に入る。
ビーカー状の魔法の壺を格納箱から出し、魔法薬学メニューを表示して製造対象を下級エリクサーにし、更にカスタマイズメニューから再生力強化を選び、1つずつ作成する。
下級エリクサー(優:再生)を一つ一つ30個造っている途中に、二人が風呂から帰って来た。
随分早く風呂から出てきたなと思いつつ作業を続けていると、不思議そうに俺の作業を見ているかとおもったら、チェーリアの方が声を掛けて来た。
「ケンショウ。風呂に入ったらラシェルの傷が開いた。治療が必要だと思うけど」
「そう。教えてくれてありがとう。
でも、俺は主人だから、呼び捨ては不味いかな。
せめて「さん」をつけて」
そう言うと、チェーリアからの返事は無いが軽くうなずいている。
それを確認し「それとラシェル。怪我とか調子が悪い時とかは、自分で俺に言わないとね」と、ラシェルにも指導しておく。
「はい。申し訳ありません」
そう言いつつ、木製のボトルに入った造ったばかりの再生に特化させた下級エリクサー(優:再生)を飲ませる。
すると飲んだ後「これって、本当に旦那様が造ったんですね」としみじみと聞かれたので、力を見せ過ぎかなと少し不安になるが、下級エリクサーを造れる人位なら多く居るから大丈夫だろう。
そう考えて「そうだよ。作り置きもあるんだけど、二人の治療の事を考えると、再生に特化させたエリクサーの方が良さそうだからね」と、嘘は言わずに説明しておく。
すると「ありがとうございます」とラシェルは恐縮した感じでお礼を言ってくれる。
「一応、この辺の能力も秘密ね。下級エリクサーが造れる程度で拘束されるとか無いとは思うけど」と、一応二人に力については言わないでとくぎを刺しておく。
「はい」と返事をしてくれたのはラシェルだけだが、まあ契約があるしチェーリアの方も大丈夫だろう。
プロの奴隷商がしてくれている契約だから、なんて慢心はしない方が良いのだろうけど、ある程度は彼女達を信頼しないと何も出来ないし。
そう考え、準備してあった鉄ミスリルの細剣をラシェルに渡す。
「その、旦那様」と、ラシェルは受け取った細剣を持ったまま困った表情しているが。
「え~と。自衛のための戦いは認めるから。これを貸すのでチェーリアも守ってあげて。
俺は、ちょっと買い物に行ってくるから」
「あ。あの。奴隷に武器は」と、ラシェルは俺に意見を言って来るが。
「そんな事を言ったら、魔物との戦いのとき困るでしょ」
「でも、普段はあまり持たせない様にするって」
「だから、これから俺が留守にするので自衛のために渡しておくんだよ。
俺は俺の女に手を出す奴は許さない。って言えるほど強くないから、そういうトラブルを減らす為にも武器を持っていると周りに見せておいた方が良いかなって」
そう言うと、黙り込んだラシェルにかわり「非常識だよ。少なくとも初日の奴隷に武器を預けるなんて」とチェーリアが指摘してくるが。
「だけど二人が心配だし、買い物には行っておかないと駄目だし」
そう、困ったなと思いつつ言うと。
「分かりました。お預かりします」とラシェルの方が折れてくれた。
「チェーリアも自衛のための戦いならOKだからね」
そう言い、チェーリアが頷いているの確認して、移動前の買い物に行く事にした。
主人公は来てもらったばかりの奴隷に、自衛のための武器を与えました。
しかし、それは非常識なようですね。
まあ、人それぞれって気もしますが。




