ベットメイキングと起床動作
それだけではなく、スクランブル(緊急発進)もある。決して楽な仕事ではない。それでも戦闘機乗りになるのは、誰にでも出来る事ではない。音速を越えるスピードで大空を駆け巡る事は、恐らくきっと世界中の航空ファンの悲願でもある。
天野は、戦闘機乗りになれると言う只それだけの理由で防衛大学校を受験した。その事が後に彼を苦しめる事に成る事になるのだが、それはまだ少し先の事である。猛勉強の甲斐もあり、天野は何とか防衛大学校に合格した。
掲示板に自分の受験番号が記載されているのを見た時には気を失いそうな位嬉しかった。しかしながらそれは、天野にとって地獄の扉をノックする事に等しいものであった。防衛大学校の事等まるで分かっていなかった天野は防衛大学校が、改めて着校してからここが士官学校であると言う事を知る。
自分の事は全て自分がやる。と言う方針でとにかくスピード感を持って自分の身の回りの事をする事から全ては始まったのである。まさか裁縫までさせられるとは、思っていなかったし、天野にとっては全てが未体験であった。
まず、誰もがやらなければならないのが、ベットメイキングと、起床動作の確認である。5枚の毛布と2枚のシーツで、封筒状のベットを作る事で毛布はシワのない様にピンと張り、角を直線直角にしなければならない。これがキチンと出来ているかを確認する為には、10円玉が一枚あればそれで良い。10円玉を毛布に落として跳ね上がる位にピンと張れていれば合格点である。
起床動作は、素早くベットから抜け出して、作業着を身に付け、毛布とシーツをたたんで、ベットの頭側に積み重ねる。シーツは毛布の間に挟んで見えない様にする。5枚の毛布は角を直線直角に揃えて定規で線を引いた様に重ねる。理想はこれ等の動作を2~3分でこの状態に仕上げる事である。毛布の整理要領として、見せられる先輩の展示は入校したばかりの天野にとっては、神業に見えた。
しかし、天野を始めとする大抵の新入生は、一ヶ月もすれば、この細かいベットメイキングを教えられた通りに全ての工程をマスターすると言うのが、平均的だと言う。




