パウダースノーの中の警衛隊
防衛大学校学生の身分は自衛官ではなく、階級も無い為、第18連隊の隊員達と上下の関係には無い。とは言え、防衛大学校学生の卒業後に小隊長として赴任して来るかも知れない事を、彼等(営内班員と連隊の隊員)もその辺の事情を良く熟知しており、それなりに遇してくれる。しかしながら、若くして幹部自衛官(三等陸尉以上)に成る事への妬みや反感もある。
道上は、同じ営内班で一週間彼等と起居を共にして、自らの立場、将来の自分のあるべき姿を考える良い機会になった。営内班の10数人とは顔見知りとなり、最終的には駐屯地の「隊員クラブ」と呼ばれる飲食飲酒OKの場所で飲み交わす関係にもなった。
地吹雪が吹き荒れる日に、道上達は駐屯地警衛隊の実習を行った。北海道の雪は、パウダースノーと呼ばれる粉雪で、手で握っても固まらない。地を這う様な風が吹くと、粉雪は空中に飛散して霧の様に視界を遮る。風速が一メートルにつき、体感温度が一度下がると言われている。この日の外気温は氷点下10度。風速はおよそ15メートル、従って道上達は体感温度がマイナス25度位になる。顔を寒風にさらすとたちまち紫色になり、竹でつつかれた様な痛みを感じる。道上達は防寒帽子、防寒靴、防寒手袋、防寒服を上下に着て身体を完全に覆っているが、寒気は容赦なく襲いかかる。道上は北の大地のシバレの真骨頂を味わっていた。
警衛隊勤務は隊員達にとっても特別な勤務である。警衛隊は、駐屯地の警備が任務であり、上番・待機・仮眠の三交代で24時間勤務をして、次の部隊に申し送る。警衛隊は、営門の立哨、外柵の巡察、弾薬庫の警備等に任ずるが、弾薬庫歩哨は89式小銃と実包を携帯する。深夜とも成ると寒さは更に厳しくなる。地吹雪は少しは収まっているが、相変わらずパウダースノーを巻き上げている。広大な駐屯地は積雪一メートルの雪の中に寝静まり、外灯の裸電球が周辺に淡い光を落としている。道上鉄也は、スキーを履いて、89式小銃を背負って、外柵に沿いながら歩いている。動いているので、寒さは感じない。吐く息は白いが、頬に当たるパウダースノーは寧ろ心地よい。




